つくる
2026.05.29

「足す」より「引く」。石井食品の開発が追求するもの

——食品添加物なしで美味しさを作る、引き算の技術と継承

開発ラボの坂井さんとミート君
開発ラボの坂井さんとミート君

「足し算」か「引き算」か——料理の考え方を問われたとき、多くの加工食品メーカーは前者を選びます。足りない旨味はエキスで補い、色は食品添加物で整え、食感は加工でんぷんで調整する。それが「作りやすさ」の方向性です。
石井食品の開発は逆を向いています。素材が持つ味を損なう余計なものを取り除き、素材の良さが最大限に引き出せるところまで調味を削っていく。その「引き算」の設計が、無添加調理※ でも豊かな味わいを生む理由です。
2019年に入社し、現在は開発ラボに所属する坂井さんに、石井食品の開発の現場と、技術継承の今をお聞きしました。

司会・編集:オウンドメディア編集部(ESG推進チーム:仲山・岸/顧客体験デザイン部:坂本)

目次

  •  自己紹介と現在の役割
  •  調味料も「原料」として選び抜く
  •  「足す」より「引く」——石井食品の開発哲学
  • 工程の先を読みながら、試作する
  • レジェンドから学び、次へつなぐ

自己紹介と現在の役割

仲山: まず、これまでのキャリアを教えてください。

坂井: 石井食品への入社は2019年になります。前職は乳業メーカーで商品開発を2年担当し、その後は化粧品の接客業を経験しました。石井食品に入社してからは、当時開発ラボに在籍していた山﨑さんのもとでパンの製造を一年かけてみっちり教わりました。工程のすべてを一人で担う現場で、食品添加物を使わずにパンを作ることの難しさと面白さを学んだ時期です。その後、2024年から開発ラボに移り、今は新商品の開発に携わっています。

坂本: 開発ラボの役割は、どういうものですか。

坂井: レジェンドと呼ばれるベテランの開発担当者たちが長年積み上げてきた知識と技術

を受け継ぎながら、それを新しい形で生み出していくことが主なミッションです。現在は、人参のハンバーグや、ベジタブルスープの開発に携わっています。

調味料も「原料」として選び抜く

素材そのままの味を大切にされる坂井さん
素材そのままの味を大切にされる坂井さん

坂本: 石井食品の開発で、入社して最初に驚いたことはありましたか。

坂井: 調味料へのこだわりが、想像以上だったことです。こだわりというと、お肉や野菜などの素材に目が向きがちですが、石井食品では醤油やお酒といった調味料も「原料」として厳選されています。もちろん商品によりますが、にこだわった調味料を合わせることもあります。例えば「たけのこごはん」の素に使っているお醤油とお酒だけで鶏肉に下味をつけて唐揚げを作ると、それだけで本当に美味しいんです。余計な調味料は何もいらない。素材がいいから、シンプルな調理で美味しくなる——それが成り立つのは、その料理に最も合う調味料を選び抜いているからだと実感しました。

仲山: その調味料は、どのように選ばれているのですか。

坂井: 一見さらっと使われているように見えますが、膨大な情報と試行の積み重ねから選び抜かれたものです。醤油ひとつとっても、色の出方、香り、塩分濃度、熟成の違いで仕上がりはまったく変わります。照り焼きなら色と照りが出やすい醤油を選び、野菜の色を活かしたい料理なら色を抑えた醤油を使う。食品添加物を使わずに見た目の美しさも担保しようとすると、調味料の選択がそのまま設計の一部になるんです。

「足す」より「引く」——石井食品の開発哲学

坂本: 食品添加物を使わずに旨味を出すのは、技術的にはどういうことなのですか。

坂井: 市販の旨味調味料も、辿れば昆布や鰹といった自然の素材から旨味成分を取り出したものです。ならば、その素材自体を丁寧に組み合わせれば、同じ旨味は出せる。ただ手間がかかるというだけで、原理は同じです。石井食品では、その手間のかかる道を選んでいます。

仲山: 開発の現場では、どんな考え方で味を作っていくのですか。

坂井: 石井食品で気づいたのは、「これを足したら美味しくなる」よりも「これを引いたら素材の味が生きる」という考え方が圧倒的に多いことです。素材の甘みや香りを生かすために、「調味料をどこまで減らせるか」を突き詰めていく。その引き算が成り立つのは、素材の質が高いからであり、調味料も原料レベルで選ばれているからです。

工程の先を読みながら、試作する

仲山: 開発の試作では、どんなことを意識しながら作っているのですか。

坂井: 製品は、最終的に加熱や殺菌の工程を経てお客様の手に届きます。だからテーブルテスト(製造工程を経る前に実施する試食での評価)の段階で美味しくても、それがゴールではありません。殺菌の熱をかけると、香りが飛んだり、粘度が変わったり、食感が変化したりする。その工程後の姿を逆算しながら、試作時の味を少し濃くしたり、食感を少し硬めにしたりと調整します。「今の状態」ではなく「最終的な状態」を想像しながら作ることが、石井食品の開発では当たり前になっています。

坂本: 試作の回数は多いのですか。

坂井: 印象より少ないかもしれません。レジェンドの経験が、最初から判断の精度を高めてくれるからです。「この素材なら、この調味の方向が合う」「殺菌後はこう変化するはずだから、今はこうしておく」——そうした積み上げてきた知識をベースに試作に入るため、大きく外れることが少ない。試作回数の少なさは、準備の濃さの裏返しだと思います。また、最終的な味の判断をいただく際は、1案だけ出すのではなく、方向性の異なる3案ほどを用意します。1案だと「もっとこうしてほしい」という意見が出やすいですが、3案あると「このあたりの方向が合っている」という感触が確認できて、判断がスムーズになります。

試作品の意見を聞く坂井さん
試作品の意見を聞く坂井さん

レジェンドから学び、次へつなぐ

仲山: 開発の技術を受け継ぐことについて、どのように感じていますか。

坂井: 開発ラボには、30年・50年の経験を積んだレジェンドと呼ばれる方々がいます。「この塩分量ならこういう色になる」「火入れ後はこう変化する」といった知識が、体と感覚に刻み込まれています。私はまだ修行中で、試作のたびにレジェンドにサポートいただきながら進めています。言語化が難しい暗黙知を、試作と評価と修正のサイクルを繰り返しながら少しずつ自分の中に落とし込んでいる段階です。

坂本: その技術を継いでいくことへの思いを聞かせてください。

坂井:開発ラボに異動してまだ日が浅いので、プレッシャーの方が大きいのが正直なところです。ただ、これだけ積み上げてきた技術と知識が、今ここにある。それを次の形につなげていくことに、大きな意味があると感じています。石井食品の「引き算」の設計思想は、ただのレシピではなく、素材と向き合ってきた長い年月が作り上げたものです。それを受け取って、次へ渡していくことが、今の自分の仕事だと思っています。

【編集後記】 「足し算より引き算」という言葉は、料理だけの話ではありませんでした。食品添加物を使わないということは、その分だけ素材の味が正直に出るということ。だからこそ、石井食品では素材も調味料も、妥協なく選ばれています。坂井さんの話を聞きながら、無添加調理※ の美味しさには「引く技術」と「選ぶ技術」の両方が必要なのだと理解しました。そしてその技術は今、レジェンドから次の世代へと、着実に引き継がれています。

※当社での製造過程においては食品添加物を使用しておりません。