つくる
2026.05.29

「俺がやる」で50年が動いた。

——石井食品のイノベーター・阿部さんが語る、挑戦と設備と次の世代

八千代工場 商品価値創造部 技術研究・メンテナンスグループの阿部さん
八千代工場 商品価値創造部 技術研究・メンテナンスグループの阿部さん

50年近く使い続けてきたフライヤー(揚げ物機)を、誰かに言われたわけでもなく、「必要だから」と動かして更新した人がいます。2022〜2023年ごろのことで、数億円規模の投資でした。
しかしこれは、阿部さんのキャリアにおける数多くの「指示を待たずに動いた」エピソードの一つにすぎません。1992年の入社以来、営業車の軽自動車化、おせちの製造体制整備、そして今はDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進——阿部さんのキャリアは、指示を待たずに「おかしいな、変えよう」と動き続けてきた歴史です。
現在は八千代工場・商品価値創造部の技術・研究メンテナンスグループで工場のデジタル化を担う阿部さんに、その歩みと、次の世代へのバトンを語っていただきました。

司会・編集:オウンドメディア編集部(ESG推進チーム:仲山/顧客体験デザイン部:坂本)

目次

  • 自己紹介と現在の役割
  • 工場の「今」を変え、「未来」をつなぐDX
  • さまざまな部署を渡り歩いた、改革の足跡
  • 「俺がやる」で動かした、フライヤーの更新
  • ゴールを見据え、次の世代と共に歩む

自己紹介と現在の役割

仲山: まずは自己紹介と、現在のお仕事について教えてください。

阿部: 八千代工場 商品価値創造部 技術研究・メンテナンスグループの阿部です。現在は主に工場のデジタル化を進めています。大きく分けて二つ、「帳票のデジタル化」と「生産情報のIoT化」(設備の稼働データを自動で収集・記録する取り組み)です。

工場の「今」を変え、「未来」をつなぐDX

仲山: 具体的にはどのようなことをされているのですか?

阿部: 一つ目は、ロット管理表などの生産記録を、紙と鉛筆からデジタル(PCやタブレット)へ切り替える取り組みです。ミートボール、ハンバーグ、とりそぼろで運用が開始しました。今の課題はデジタルになじみのない方の教育ですね。

仲山: 二つ目のIoT化については?

阿部: IoT化は、生産情報を活用するためのDXのひとつの手段だと捉えています。冷蔵庫・冷凍庫・フライヤーなど生産設備の稼働情報を、どこからでもリアルタイムで確認できる仕組みを作っています。

仲山: それらが実現した先に、どんな未来を描いていますか?

阿部: 目指しているのは、三工場の生産データが一元管理できるようにすること、そして取得データを活用して不適合の削減や生産能力の向上を実現する仕組みを運用することです。まだまだ課題も多いので、チームへの参加者を絶賛募集中です。

Iot化について説明する阿部さん
Iot化について説明する阿部さん

さまざまな部署を渡り歩いた、改革の足跡

坂本: 阿部さんは社歴も長く、さまざまな部署を経験されていると伺いました。

阿部: 1992年入社で、最初は商品開発部でした。初めて開発した商品は薬膳がゆです。2年ほどで今のBラインにあたるデリカの生産部門に配属され、シチュードハンバーグやおせちの生産に2年ほど従事しました。その後おせちのプロジェクトを担当し、本社で長く販売データの管理や施設の維持などに携わって、今の部署に来ました。

坂本: 特に印象に残っているお仕事は?

阿部: 長く携わったのは、おせち料理の製造プロジェクトです。当時、お重の生産量は全国でトップ3に入っていましたね。宅急便でのお届け、紙のお重、食物アレルギー対応のお重も、石井食品が業界でいち早く取り組みました。

坂本: その後、本社管理部門でも大きな改革をされたとか。

阿部: 2013年に本社に異動したころ、社会環境が激変してエコ意識が高まり、試食販売もできなくなってきた。そこで限りある資源を大切にしながら経費を削減しようと、全面的に軽自動車への切り替えを進めました。

坂本: 当時はまだ、企業の営業車で軽自動車は珍しかったのでは?

阿部: 『軽では長距離が疲れる』『事故の時が怖い』と話を聞いてもらえない人もいて、地道に賛同者を増やしながら数年かけて切り替えました。年間1,200万円のコスト削減になりましたし、燃費や高速料金の面でもガソリン代をかなり抑えられました。

「俺がやる」で動かした、フライヤーの更新

仲山: 阿部さんの「指示待ちではない」姿勢が、大きな設備投資にもつながったと聞きました。

阿部: 2022〜2023年ごろに行った、フライヤーの更新ですね。以前のフライヤー、50年近く使っていたもので、老朽化でいつ止まってもおかしくない状態でした。でも、更新するには数億円規模の投資が必要になる。

仲山: 会社としても簡単には決断できない金額ですね。

阿部: 大変でしたが、新しいフライヤーになったことで油の使用量も減り、品質も安定しました。何より、現場が安心して生産できる環境を作れたことが一番です。物は老朽化するので、「壊れてから」では遅い。新しい機能の追加だけでなく、経年劣化を是正することにも投資の意味があるという考え方が、もっと広まってほしいと思っています。

仲山: 「誰かがやるだろう」ではなく「俺がやる」。その原動力は何ですか?

阿部: 気質ですかね。『これが必要だ』と思ったら、まず声に出して共感してくれる人を探します。一人でやろうとするより、仲間を巻き込みながらの方がうまくいきますから。

会議中の阿部さん
会議中の阿部さん

ゴールを見据え、次の世代と共に歩む

坂本: 現在取り組んでいるDXも、阿部さんにとっては「当たり前に必要なこと」の一つなのですね。

阿部: そうです。でも、設備の更新はゴールではありません。DXのゴールはデータが活用できていることです。今、生産設備のデジタル情報は「見える環境」が構築されてきました。来期の大きな課題はデータの活用で、そこまで到達するにはまだ時間がかかると思っています。

坂本: 若い世代に伝えたいことはありますか?

阿部: 新しいことにチャレンジする際、2つのことを大切にしています。一つ目は、ビジョンを描くこと。明確でなくてもゴールを決めておくことで、やったことの正否が判断できます。二つ目は、たとえ失敗してもやり切ること。途中で投げ出してしまうと何が悪かったかわからず、経験値になりません。この2点をぜひ意識してほしいと思っています。

坂本: これからの阿部さんの目標は?

阿部: 私が携わっている八千代工場でのDX化は、職歴も個性も違う仲間が参加して意見を出しながら楽しく取り組んでいます。食品メーカーは直接生産に携わっている人たちが主役。改善には困難なことも多いですが、主役の皆さんが『より便利になった』『より楽しくなった』と感じていただけるよう、これからも推進していきたい。この思いを次の世代にしっかりと渡していきたいと思っています。

【編集後記】 「壊れてから」では遅い——阿部さんが繰り返したこの言葉は、フライヤーの話だけではないと感じました。技術も、仕組みも、文化も、気づいた時には手遅れになっていることがある。50年のフライヤーを動かしたのは、「必要だからやる」というシンプルな確信と、それを最後まで手放さなかった粘り強さでした。次の世代にバトンを渡す準備をしながら、今日も阿部さんは工場のデータと向き合っています。

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