お刺身は昔、酢で食べていた──日本料理を一変させた「醤油」について
ラジオ「石井食品 presents おいしいの種」#8
毎週日曜日の朝、ラジオ番組「石井食品 presents おいしいの種」では食の楽しさと大切さをお届けしています。今回のゲストは、江戸時代から続く日本料理の流派「近茶流(きんさりゅう)」の宗家であり、東京・赤坂で柳原料理教室を主宰する料理家・柳原尚之さん。今回は「醤油が日本料理をどう変えたか」という歴史の話から、食の多様化が進む現代への警鐘、そして子どもの食育まで、縦横無尽に語り合いました。
目次
- 五感で味わう、柳原家の食育
- お刺身が「酢」で食べられていた時代の話
- 醤油とみりんが生んだ、現代日本料理の原型
- 世界の味が均一化する時代に、煮物が伝えてくれること
- まとめ
ラジオ出演者
柳原 尚之(やなぎはら なおゆき)
料理家。江戸時代より続く日本料理の流派「近茶流(きんさりゅう)」の宗家であり、東京・赤坂で柳原料理教室を主宰。東京農業大学卒業後、小豆島の醤油会社で研究員を務め、その後オランダの帆船「スワン・ファン・マッカム」に乗り込んで世界を巡るという、料理家としては異色の経歴を持つ。数々の料理監修・時代考証も手がける。石井食品のおせち料理の監修も担当。
岩田 知佳(いわた ちか)
InterFM ラジオDJ。千葉県船橋市出身。石井食品・石井智康社長と同郷・同級生という縁から、「石井食品 presents おいしいの種」のDJを務める。2児の母としての日常や、食と子育てにまつわるリアルな視点が持ち味で、ゲストから自然体の言葉を引き出す聞き上手。毎週日曜の朝、食を通じた温かい会話をリスナーに届けている。
石井 智康(いしい ともやす)
石井食品株式会社 代表取締役社長。千葉県船橋市出身。同世代の経営 者や地域の仲間とのつながりを大切にし、食品業界の未来と食文化への貢献を発信し続けている。娘を育てるパパとしての顔も持ち、日々の食卓に寄り添う目線を経営にも番組にも活かしている。毎週日曜の朝、食の楽しさと大切さをリスナーへ届けるホストを務める。
五感で味わう、柳原家の食育
岩田さん:柳原先生、休日にはお家で料理はされますか?
柳原さん:結構作りますよ。普段が日本料理なので、週末はイタリアンやフレンチ、ピザを焼いたりもします。
岩田さん:お子さんもいらっしゃるんですよね。
柳原さん:子どもは小学生が2人います。食育として意識しているのは「いろいろな味や香りを経験させること」です。子どもは苦味や酸味を避けがちですが、大人が美味しそうに食べている姿を見せることが大切だと思っています。
石井:それ、すごく大事ですよね。うちの娘も、親が美味しそうに食べていると興味を持ってくれます。
柳原さん:味覚というのは、舌や鼻だけでなく、目、耳(音)、食感、温度など五感すべてで感じるものなんです。テレビを見ながらではなく、しっかり料理と向き合って食べる習慣をつけてあげることが、長い目で見ると一番の食育になると思っています。
お刺身が「酢」で食べられていた時代の話
岩田さん:柳原先生、日本料理の歴史についても教えていただけますか?
柳原さん:実は醤油というのは、江戸時代の中期以降に一般化した調味料なんです。それまではお刺身も「酢」をつけて食べていたんですよ。
石井:え、刺身を酢で? それは知らなかったです。
柳原さん:はい。生の魚を食べるリスクを減らす殺菌の意味もありました。今でも酢でしめるアジの南蛮漬けや〆鯖がありますが、あれは現代まで続く流れの一つですね。
岩田さん:醤油が登場したことで何が変わったんですか?
柳原さん:劇的に変わりましたね。醤油には塩分だけでなく、旨味、酸味、そして殺菌効果のあるアルコールも含まれているんです。だから生魚にも合う、非常に万能な調味料なんです。
醤油とみりんが生んだ、現代日本料理の原型
柳原さん:醤油とみりんの登場によって、そば、うなぎの蒲焼、お寿司といった現代私たちが「日本料理」と思っているものの原型が江戸時代に生まれたんです。
岩田さん:今の日本料理は江戸時代に完成したということですね。
柳原さん:例えばうなぎの蒲焼にも使われるみりんはもともとは女性に好まれた飲み物でした。みりんには甘さだけではなく照り出しの効果もあり、醤油とともにそばやうなぎの蒲焼など様々な料理に使われるようになりました。
石井:調味料一つで食文化がこれだけ変わるんですね。食品メーカーとして、改めて素材や調味料の力を考えさせられます。
世界の味が均一化する時代に、煮物が伝えてくれること
石井:食の多様化が進む現代について、柳原先生はどうお考えですか?
柳原さん:多様化と言いつつ、実は世界中で同じような味付けの料理が増えていることに危機感を感じているんです。油脂と甘味の組み合わせが世界標準になりつつある、そんな印象があります。
岩田さん:どこに行っても似たような味、ということですね。
柳原さん:そうなんです。だからこそ、日本人が何を食べてきたのか、その成り立ちを知った上で、煮物のような「素材を活かした薄味」の良さを伝えていきたい。それが近茶流としての私の使命だと思っています。
石井:石井食品も「素材の良さを活かす」ということを大切にしているので、すごく共鳴します。白子町の新玉ねぎを使ったハンバーグも、玉ねぎの甘みをそのまま感じてもらえるように仕上げているんです。
柳原さん それは素晴らしい。素材ありきの発想が、これからの食文化を守るカギになると思います。
まとめ
醤油が生まれる前の日本料理、食の多様化が招く均質化の危機、そして五感で味わう食育の大切さ……柳原尚之さんとの2週にわたる対話は、「食べること」をこんなにも奥深く考えさせてくれるものでした。近茶流が江戸時代から守り続けてきた「素材を活かすシンプルさ」は、現代の食卓にこそ必要な知恵なのかもしれません。
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