約1年半をかけ、お正月の食卓へ。イシイのおせちが、変えながら守ってきたもの
石井食品がおせちをつくりはじめたのは1951年。時代の変化とともに食卓の形や使う素材、おせちのつくり方が変わるなかで、わたしたちは何を「変え」、何を「守って」きたのでしょうか。八千代工場で開発を担当する内田さんに、約1年半をかけるおせちづくりと、そのなかで守り続けてきた食文化への想いについて聞きました。
目次
・ 約1年半前の秋から、おせちづくりは始まる
・ 「主原料は国産。産地が明確なものを」──変えないために、変えてきた
・ 「いちばん試行錯誤したのが、黒豆でした」
・ 自社の努力だけでは、どうにもならない
・ 一の重の、いちばん手前に
・ 同じ食卓を、みんなで囲めるように
・ まとめ
プロフィール

石井食品株式会社 八千代工場 生産管理チーム開発担当 内田さん
『イシイのおせち』の企画設計から製造ラインの組み立て、生産計画などを担当。
品質保障部を経て現在の部署へ。おせちに関わっておよそ10年。
約1年半前の秋から、おせちづくりは始まる
おせちが食卓に並ぶのは、1月1日。そのおせちづくりは、約1年半前の秋から始まります。
2027年のお正月にお届けするおせちは、2025年の秋ごろから企画を始めました。
内田さん:今年の年末にお届けするおせちは、前の年の秋口から考えはじめています。今年の商品の試作をつくりながら、来年のことも考えている。おせちづくりのサイクルはそうして途切れることなく続いていきます。
お客さまが召し上がる約1年半前から企画を検討しはじめ、ちょうど1年前の1~2月に味や構成を検討しています。3月〜5月には詳細な商品設計を行い、初秋には販売が始まります。
目の前のおせちをつくりながら、その先のお正月も考える。新しい年の最初の一食に向けて、長い時間をかけて丁寧につくりあげています。
「主原料は国産。産地が明確なものを」──変えないために、変えてきた
おせちは、たくさんの料理を一つのお重に詰め合わせます。
味だけでなく、ふたを開けたときの華やかさや彩りも、お正月らしさの一つです。
だからこそ、それら一品一品を食品添加物に頼らずにつくるのは、簡単なことではありませんでした。
石井食品のおせちが無添加調理※に切り替わったのは、約10年ほど前。それまでは紅白のかまぼこや飾りの餅などに、着色されたものも一部使用していました。
おせちは品数が多く、食材も調味料もさまざまです。一つの食品添加物を使わないようにすれば終わりということではなく、一品ずつ原材料を確認し、必要なら作り方そのものから見直す必要がありました。
内田さん:もともと無添加調理※で仕上げる試みをはじめる以前から、うまみ調味料は少しずつ減らしてきましたが、この取組みを取り入れる過程で、だしの素やかつおのエキスをやめ、かつお節からだしを引くところに切り替えています。
主な原材料を国産にそろえたのは、2019年発売分からです。
内田さん:国産の原材料は、どこでつくられているのかを把握し、産地を確認しやすいんです。そうした背景から、産地が明確なものを使っていこう、という考え方に変わりました。
「いちばん試行錯誤したのが、黒豆でした」
同じおせちをつくり続けるために、素材や作り方を変えていく。そのなかでも、無添加調理※への切り替えで特に試行錯誤した一品がありました。
黒豆です。大きな課題の一つになったのが、黒豆を柔らかく炊き上げるために使っていた重曹でした。
内田さん:当時の開発担当の方から、いちばん試行錯誤したのが黒豆だったと聞いています。家庭で炊くときにも、まず重曹を入れますよね。それ以外の方法が書かれた本などは、ほとんど見当たらなかったそうです。
その方が、何度も試行錯誤を重ねて、今の作り方にたどり着いたんです。今も時間をかけて、ふっくらと柔らかく、つやつやに炊き上げています。
黒豆は、おせちに欠かせない祝い肴の一つ。まめに健やかにという、新しい一年への願いが込められています。
作り方は変わっても、お正月に黒豆を食べ、一年の健康を願うことは残していく。そのために、重曹を使わなくてもふっくらと柔らかく炊き上げる方法を探してきました。
もう一つの看板が、栗きんとんです。秋になると工場に国産の栗が届きます。
内田さん: 自社で一つひとつ丁寧に皮をむいているところが、いちばん手間ひまがかかっています。栗の皮を自社でむこうとは、なかなか考えないと思います。
手間ひまをかけるのは、「おいしいから、また食べたい」と思ってもらうため。そのおいしさが、おせちの文化を次の世代へつなぐ力になります。
変えないために、作り方を変える。黒豆や栗きんとんにも、その姿勢が表れています。
自社の努力だけでは、どうにもならない
主な原材料を国産にそろえた最初の年は、食材を探すところからでした。
内田さん:魚介類は外国産のものが多かったので、国産を見つけるのが大変でした。最初の年はさわらの国産が見つけられなくて、すべてぶりに替えたこともあります。数の子も、北海道産のものを調達しました。
見直した点は、自社の製造工程だけではありません。
おせちは一人前でも20品目ほどがそろって、ようやく一つの商品になります。仕入れる食材の数だけ、話をする相手がいます。
内田さん:うまみ調味料を使わないでくださいというのを、取引先に徹底していく必要があります。おせちは仕入れる食材がとても多いので、取引先に一社ずつ協力を仰ぎながら、味をつくり直していきました。
発酵調味料はみりんへ、料理酒は清酒へ。家庭の台所にあるものへと置き換えていきました。
内田さん:自社の努力だけでは完成させられない。そこに、おせちづくりの難しさがあります。
仕入れ先の工場にも理解をしていただき、こだわりのおせちを作ります。今のおせちは、石井食品だけでつくり上げてきたものではありません。
壱の重の、いちばん手前に
黒豆をはじめ、おせちの一品ずつには新しい年への願いが込められています。
石井食品のおせちでも、おせちを監修する柳原尚之さんからアドバイスをいただき、おせちにこめられる意味と並べ方を工夫しています。
内田さん:関東でよく言われる祝い肴三種は、黒豆と数の子と田作りです。これが蓋を開けて一番最初に目に入るように、壱の重のいちばん手前に並ぶようにしましょうと、監修される柳原さんからのアドバイスを取り入れています。
黒豆は、まめに健やかに。数の子は子孫繁栄。田作りは豊作祈願。えびは長寿を、きんとんは金に見立てた豊かさを願います。関西では田作りの代わりに、叩き牛蒡が入ることが多いです。
ただ料理を詰めるのではなく、「なぜお正月に食べるのか」まで伝えるための並べ方です。

内田さん:伝統的な定番の具材は、できるだけ定番のままお入れしています。そのうえで、いまの方にも食べやすいものを加えていきます。
作り方や食べ方は変えながら、一品一品に込められてきた願いは残していく。それも、長くおせちをつくり続けるなかで守ってきたものです。
同じ食卓を、みんなで囲めるように
石井食品には、食物アレルギーに配慮したおせちと、食塩を使わないおせちがあります。どちらも立ち上げは手さぐりからでした。
内田さん:アレルギーに配慮した工場ができる前でしたので、外でつくっていただくものは一社ずつ伺って取組みに賛同いただき、弊社の基準にあう形でつくっていただいていました。
目指したのは、見た目にも特別扱いをしないことでした。えびやかにを外しても、食卓に並ぶものは同じであってほしい。その考えは、食塩を使わないおせちにも通じています。
内田さん:しょうゆも食塩も使わないとなると、何でうまみを出すのかが問題になります。塩味でごまかせませんので、素材のうまみやだしのうまみで食べやすくする必要がありました。
食卓の形も変わってきました。かつては三段重が主流でしたが、いまは一人前の箱も伸びています。
家族の形や食べ方が変われば、おせちの形も変わる。それでも、みんなでお正月の食卓を囲んでほしいという思いは変わりません。
※石井食品での製造過程においては食品添加物を使用しておりません。
まとめ
最後に、どんなお正月を過ごしてほしいかを尋ねました。
内田さん: おいしい食卓の真ん中を彩るものになってくれたら、うれしいです。お正月にいちばん最初に召し上がっていただく食事ですから、みなさまが笑顔でおいしく召し上がってくださったら、それがいちばんだと思います。
少し間を置いて出てきたのは、製法や素材ではなく、「食卓」という言葉でした。
内田さん: そのために工場としてできるのは、お客様へ安全と安心とおいしさをお届けすることだけです。
素材や作り方、家族の形が変わっても、守り続けたいのは、おいしさと、一品一品に込められた願い、そして食卓を囲む喜びです。
約1年半をかけたおせちが、新しい一年の最初の食卓へ。イシイはこれからも、時代に合わせて工夫を重ねながら、おせちの文化を次の世代へつないでいきます。
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