広がる
2026.09.09

続けることが、守ること。名古屋・カネハツ食品で受け継ぐ、佃煮と煮豆の技

お正月に欠かせない黒豆は、初夏から仕込みが始まります。名古屋のカネハツ食品では、佃煮も煮豆も、時間と手間をかけて丁寧に炊き上げられています。原材料の調達、製造、開発。それぞれの立場から味を支える3人に、受け継がれてきた技と、次の世代へつなぎたい想いを伺いました。

佃煮と煮豆を原点とする石井食品にとっても、カネハツ食品のものづくりには重なる部分があります。両社は同じ食品業界で切磋琢磨する間柄で、近年は部門ごとの交流を通じて、互いの知見や取り組みを共有してきました。

つやよく炊き上がった佃煮に、ふっくらとした煮豆。日本の食卓で長く親しまれてきた味ですが、その一品にどれほどの時間と手間がかけられているかは、あまり知られていません。カネハツ食品のものづくりの現場を訪ねると、素材の状態を見極めながら味をつくる、「煮る」という仕事の奥深さが見えてきました。

目次

  • 「変えないのが技術」── 受け継がれる伝統製法「浮かし炊き」
  • 同じ味をつくり続ける ── 湿度と豆の硬さに、人が合わせる
  • お正月の黒豆を、5月から仕込む ── 時間が味をつくる
  • 原料を見極め、味を時代に合わせる ── 3人がつなぐ食文化
  • 続けることで、次の世代へ

お話しを伺った方

加藤忠慶さん(カネハツ食品 第一工場 工場長) 

新卒でカネハツ食品に入り、入社29年目。工場勤務から営業、惣菜工場を経て、現在は佃煮・煮豆・和惣菜を炊く第一工場を率いる。守り続ける「浮かし炊き」製法の担い手。

 

 

太田裕美さん(カネハツ食品 営業部特販課 課長) 

入社以来ほとんど開発ひとすじ。その経験を活かした「開発営業」として、業務用や相手先ブランドのお客さまの要望を、自分で商品に仕立てて届ける。開発から発注、出荷までを一人で担い、近年はやわらかさや食べやすさに配慮した商品づくりにも力を入れている。

 

塩谷尚也さん(カネハツ食品 購買部 部長)

 一次加工の工場で現場を知り、そこから原料の仕入れへ。長く購買を担ったのち、惣菜をつくる第三工場で責任者を務め、いまは購買部 部長として原材料の調達を率いる。自ら市場に足を運び、自分の目で原料を確かめることを大切にしている。

 

「変えないのが技術」── 受け継がれる伝統製法「浮かし炊き」

カネハツ食品は、名古屋で佃煮や煮豆、惣菜をつくり続けてきた会社です。案内してくれた加藤さんは、新卒で入社して29年目。製造、営業を経験し、現在は第一工場を率いています。

第一工場で炊くのは、佃煮、煮豆、和惣菜。合わせて1日15〜20tにもなります。その釜の前で加藤さんが守り続けてきたのが、「浮かし炊き」という昔ながらの製法です。煮汁をゆっくり循環させ、素材の芯まで味をしみ込ませていきます。

加藤さん:煮汁を回しながら、素材のなかへ味を入れていくんです。そこはずっと変わっていません。変えないのが技術だと思っています。

「変えない」といっても、ただ同じ作業を繰り返すわけではありません。守ると決めた製法に毎日向き合い、手間を惜しまず続けていく。加藤さんの言葉からは、そんな揺るぎない姿勢が伝わってきました。

浮かし炊き製法の機械

同じ味に炊き上げ続けるために ── 湿度と豆の硬さに、人が合わせる

炊き上がりの見極めには、熟練の技が光ります。糖度を測る「ブリックス管理」を行い、レシピと時間どおりにつくれば、9割ほどは狙いどおりに仕上がる。それでも、残りの1割が難しいのだと加藤さんは言います。

加藤さん:気温や天気、とくに湿度に左右されます。梅雨の時期は水分が飛ばなくて、一番辛い。除湿機を総動員し、最後は熟練の感覚で仕上げていきます。

湿度の影響を最も受けるのが「田作り」です。カラリと仕上げたい小魚は、空気が湿ると途端に炊きにくくなります。

 

加藤さん:田作りは、とくに湿気に弱いんです。台風が来ると、現場の湿度が一気に上がって、うまく仕上がらない。雨が降ると、なおさら作りづらくなります。

蒸気が立ち込める製造現場 
蒸気が立ち込める製造現場 
炊きあげられた田作り
炊きあげられた田作り

もう一つ、日々向き合うのが豆の硬さです。原料は年ごと、時期ごとに状態が変わるため、同じ条件で調理しても、同じようには炊き上がりません。

加藤さん:豆の硬さが、いちばん難しい。1、2か所ではなく、何か所も、一つひとつ丁寧に硬さと炊き加減を確かめます。原料の水分が変われば、水戻しの時間を長くするなど、少しずつ調整していきます。

そして最後にものを言うのは、やはり人の舌です。数値だけに頼らず、人が舌で確かめる「官能検査」を、カネハツ食品は今も大切にしています。

加藤さん:舌で感じるところは、機械ではできない。うまいかどうかの物差しは、自分たちでしっかり持っています。

お正月の黒豆を、5月から仕込む ── 時間が味をつくる

煮豆づくりは、豆を水に戻すところから始まります。通常でも、完成まで3日ほど。一晩で仕上がるものもあれば、ゆでて煮汁に漬け、さらに一晩寝かせるものもあります。なかでも桁違いに時間をかけるのが、年末に向けて炊く北海道産の黒豆です。

加藤さん:長いものだと、完成まで最低3か月かかります。だから5月に仕込むんです。夏を過ぎてからでは、もう間に合いません。炊いている途中で食べても、まだ硬くて、とても食べられたものではない。時間が解決してくれる、そういう製法なんです。

初夏に仕込んだ一粒が、長い時間をかけて年の瀬の食卓へ届く。その時間が、黒豆のふっくらとした食感と深い甘さを育てます。一方で、加藤さんは、手をかけることだけが大切なのではないと話します。

加藤さん:機械に任せられるところは任せればいい。手作業にこだわるのではなく、人が楽になることを考えて機械化していく。それが一番だと思っています。

 

吊り上げ機を使って豆の入った籠を移動する様子

原料を見極め、味を時代に合わせる ── 3人がつなぐ食文化

一粒の豆が食卓に届くまでには、いくつもの手が重なります。その入り口を担うのが、購買部長の塩谷さんです。カネハツ食品では、昆布を切る、豆を選り分けるといった一次加工も自社で行います。だからこそ塩谷さんは、原料を自分の目で確かめることを欠かしません。

塩谷さん:買った原材料は、自分たちで見るようにしています。気になれば市場に足を運んで、自分の目で確かめる。工場に納品されれば、原料も見る。うちに残っている文化ですね。

厳選した素材を、商品としての味に仕立てるのが開発です。営業部特販課の太田さんは、入社以来ほとんど一貫して開発に携わってきました。現在はその経験を生かし、お客さまの要望を商品にして届ける「開発営業」を担っています。開発から発注、出荷まで一貫して関わる太田さんには、譲れないことがあります。

それは、製法です。
袋に具材と調味液を入れ、加熱殺菌の熱で味をしみ込ませる製法もあります。しかしカネハツ食品では、最後までしっかり煮詰め、炊き上げてから袋に詰めます。できあがったその場で食べられる、家庭の煮物と同じようなつくり方です。

太田さん:作ってすぐは差が出にくいのですが、時間がたつと違いが表れます。商品を手に取るお客さまに、最後までおいしく召し上がってほしい。だから、すぐに食べられる状態まで仕上げたものを包装しています。

受け継いできた味を次の世代へつなぐために、太田さんは、時代に合ったおいしさも追求しています。

太田さん:昔ながらの大切なものは残しつつ、現代に合った味も取り入れて、少しずつ改良していく。そうしないと、食べ続けてもらえません。親が食卓に出さないと、お子さまも食べる機会がないので、次の世代に伝わらないんです。

商品の箱詰めを行う様子

続けることで、次の世代へ

なぜ、佃煮と煮豆は長く食べ継がれてきたのか。加藤さんの答えは、明快でした。

加藤さん:やっぱり、日本人の味に合うから。醤油と砂糖は、日本人の口に合うんです。

味を守るとは、ただ同じことを繰り返すことではありません。伝統の製法を続ける。原料を自分の目で確かめ続ける。時代に合わせて味を磨き続ける。3人それぞれの「続ける」が重なって、佃煮や煮豆という日本の食文化は、次の世代へ手渡されていきます。

受け継いだ技を守りながら、いまの食卓に合う味へと磨き続ける。その積み重ねこそが、食文化を未来へつなぐ力になるのだと感じました。

煮豆づくりを説明する加藤工場長

関連リンク