「"甘い"より"おいしい"と言われたい」熊本・長洲町のミニトマト農家
熊本#02|暑さや病気に向き合い、独自の栽培方法を見つけた宮本さん
【編集部より】2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震で被害を受けられたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。熊本で今もものづくりを続けるみなさまへの敬意を込め、取材したことばをお届けします。
熊本の豊かな風土と情熱あふれる作り手を訪ねるコラムシリーズ(全11回)。第2回は、有明海にほど近い畑で、暑さや病気に向き合いながら、自分なりの栽培方法を見つけてきたミニトマト農家・宮本元さんを、熊本シリーズのつなぎ手である佐藤かつあきさんと訪ねました。
目次
- 「もう俺がやろうかな」──30歳、脱サラからの就農
- 穴を掘らず、置くだけ。暑さから生まれた独自の栽培
- 「甘い」より「おいしい」と言われたい
- 選ばれて、届く ― 長洲町のトマト
- まとめ
お話を伺った方
宮本 元(みやもと はじめ)
熊本県玉名郡長洲町でミニトマトを育てる。家族が営んできた農園を引き継ぎ、自分の代になって約10年。48アールのハウスで、年間12,000株ほどを栽培する。長洲町ミニトマト部会に所属。
佐藤かつあき(さとうかつあき)さん
熊本を拠点とするクリエイティブディレクターで、「株式会社かつあき」を主宰。地域や企業の魅力を伝えるしごとや、ものづくりのディレクションを幅広く手がけてきました。熊本の文化や慣習を知り、石井食品と熊本の作り手のあいだに立つ人。この連載では、作り手と読者、そして熊本とその外をつなぐ「つなぎ手」として、毎回ともに歩んでもらいます。石井食品とのつながりは、2016年の熊本地震後、被災地の声から生まれた「potayu(ぽたーゆ)」を共同開発したときから。佐藤さんはパッケージデザインを手がけました。今回は『すごい熊本酒肴箱』の包材や映像のディレクションを担います。
「もう俺がやろうかな」──30歳、脱サラからの就農
6月末、ハウスに入ると強い日差しの下で真っ赤な実が房のまま揺れていました。宮本さんがミニトマト栽培を継いだのは30歳のころ。それまでは介護系の仕事をしていたそうです。
編集部:継ごうと思ったきっかけを教えてください。
宮本さん:「もうやろうかな」と思っただけです。当時は弟たちがまだ学生だったので、「じゃあ俺がやろうかな」と。
栽培のノウハウを十分に教わる機会がないまま農園を引き継いだ宮本さんは、一つひとつ自分で確かめながら、独学で栽培を続けてきました。
佐藤かつあきさん:昔より、経営もちゃんとやらないと、という時代ですよね。
宮本さん:ノウハウは1個もないので。必要に迫られて採算を考え出したのが、ここ2、3年です。

長洲町・ミニトマト農家の宮本さん
穴を掘らず、置くだけ。暑さから生まれた独自の栽培方法
宮本さんが見出したのは、苗の根元を土に埋めず、地表に置く「置くだけ定植」という方法です。
佐藤かつあきさん:栽培のこだわりはどんなところでしょうか。
宮本さん:普通は穴を掘って植えるじゃないですか。それを、穴を掘らずに置いているだけなんです。暑いからなんですよ。定植が9月以降になるので、40度近いハウスの中で、穴を掘って埋めて…という作業を短くしたくて。3〜4年、試行錯誤して、今は全部「置くだけ」です。
作業を軽くするために始めた方法でしたが、根が酸欠になりにくく、病気にもかかりにくいという効果がありました。暑さのなかの大変な作業を見直したことが、結果として病気に強い栽培方法につながったのです。

灼熱の暑さを軽減する遮熱カーテン
佐藤かつあきさん:もともと会社員をされていたから、というのもあるかもしれませんね。
宮本さん:多分そうですね。今までのやり方をやめたらどうなるか、わからんじゃないですか。「うまくいくわけない」と言われたけど、普通にできているし。病気も出ないし、やめる理由がないですね。
長洲町は水害に遭いやすい土地でもあり、土の病気は先代からの課題でした。今は微生物を入れて菌を抑えますが、近年はそこへ厳しい暑さが重なっています。
宮本さん:去年は暑さと病気で、木がなくなったんです。今の時期にはトマトの玉が焼けて真っ赤になってました。
そんな1年を越えて、暑さと病気に強い品種「ロイヤルパッション」へ切り替えました。遮熱カーテンで、光は入れつつ温度だけを抑える工夫も重ねています。

色づくミニトマト「ロイヤルパッション」
「甘い」より「おいしい」と言われたい
編集部:トマトの甘さの秘密を教えてください。
宮本さん:甘さは自然とついてきます。光合成で糖を作って実に還元するので、おいしくなる。天気が良い環境が1番ですね。
佐藤かつあきさん:毎年、試行錯誤が続きますよね。
宮本さん:同じ方法じゃ作れないですね。この暑さの避け方で、味も木の姿も変わるので。
この品種は棚持ちがよく、長く楽しめます。宮本さんが目指すのは、突き抜けた甘さではありません。
宮本さん:「おいしい」の言葉が、一番うれしいですね。「甘い」はどこにでもあるんですよ。甘いトマトはどこにでもあるけど、「おいしい」とはなかなか言われない。甘すぎず、酸っぱすぎず、ちょうどいいバランス。それが、今つくっているミニトマトなので。

選ばれて、届く ― 長洲町のミニトマト
石井食品と宮本さんのトマトが出会ったのは、2025年8月の水害がきっかけでした。
石井食品の社員が現地で味見し、「使ってみようか」と話が動き出したのです。
宮本さん:「本当かな」と思いましたけど。そこから、ここまで来てくれたので、うれしいなって。
佐藤かつあきさん:今回、トマトのマリネというメニューに使われているんですよ。熊本って、トマトのイメージがありますし。
宮本さん:まだ食べていないので、試食が楽しみで。赤いし、彩りもよくなりますよ。
編集部:トマトはドライトマトにしています。工場で軽く炙って、玉ねぎと混ぜたものなんです。
宮本さんが所属する長洲町ミニトマト部会のトマトは、味で選ばれてきました。
宮本さん:長洲町で採れるミニトマトは量は少ないけど、味で評価を受けているので、人気があるんですよ。ただ、知ってもらう場が少ない。石井食品さんで使ってもらえると、「長洲町のトマトなんだ」と気づいてもらえる。

1粒ずつトマト選別する宮本さん
まとめ
穴を掘らずに苗を置く「置くだけ定植」、暑さと病気に強い品種への切り替え、遮熱カーテンの活用。どれも、栽培のノウハウを十分に教わる機会がないまま農園を引き継いだ宮本さんが、目の前の暑さや病気に向き合い、自分で試しながら見つけてきた方法です。目指すのは、突き抜けた甘さではなく、甘さと酸味のちょうどいいバランス。「甘い」より「おいしい」と言われる、そのひと言のために、毎年の環境に合わせて手をかけ続けています。
「太陽をいっぱいに浴びて育ったトマトを、思いきり頬張ってほしい」それが宮本さんの願いです。宮本さんのミニトマトを知ると、長洲町に行ってみたくなります。作り手を知ることは、きっと熊本とつながること。

ミニトマト生産者 宮本さん(左)とつなぎ手の佐藤かつあきさん(右)
―次回・熊本シリーズ #03|火の国の養豚場をたずねます
商品情報
『すごい熊本酒肴箱(しゅこうばこ)〜生産者とともに、一年かけて作り上げた一箱〜』
熊本の生産者とともに一年をかけてつくった、2人前の酒肴箱。天草大王、火の本豚、馬肉、天草の車海老、天草ぶり、長洲町のトマト、有明海のあさりなど、熊本各地の食材を使った全9品と熊本県産米(1合)を詰め合わせました。酒肴を楽しんだあとは、「長洲町あさりの贅沢まぜご飯の素(きゃあめし)」で〆まで熊本の食文化を味わえます。全品個別包装、限定200箱です。
- 石井食品 公式オンラインストア
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「すごい熊本酒肴箱」 盛り付け例