変わらぬ味は、磨き続ける味。ユーハイム・河本英雄さんに聞くお菓子づくり
ラジオ「石井食品presents おいしいの種」#27
毎週日曜日の朝、ラジオ番組「石井食品 presents おいしいの種」では、食の楽しさと大切さをお届けしています。今回のゲストは、株式会社ユーハイムの代表取締役社長・河本英雄さんです。
おなじみのバウムクーヘン。その「変わらぬ味」を支えているのは、素材を大切にしながら、技術を磨き続ける職人たちでした。
ロンドンでの出会いをきっかけに、ものづくりへの姿勢に共感し、和栗を使った商品開発にも取り組んできたユーハイムと石井食品。バウムクーヘンにまつわる食文化から、両社に共通するおいしさの追求まで、お話を伺いました。
目次
- ロンドンで出会った、ものづくりの共通点
- ドイツ生まれのバウムクーヘンが、日本で育んだ食文化
- バウムクーヘンの食感をつくる、層を重ねる技術
- 「変わらぬ味」のために、おいしくし続ける
- 「無添菓」と「無添加調理」に共通する考え方
- つくりたい味から、材料づくりまで遡る
- 和栗のおいしさを、モンブランへ
- まとめ|いつもの味の向こうに、つくる人がいる
ラジオ出演者

河本 英雄(かわもと ひでお)
1969年兵庫県神戸市出身。明治大学商学部卒業。慶應義塾大学大学院修了。1999年ユーハイム入社。パリ研修を経て帰国後に企画室長。中央工場、営業部長を経て関西支社長。その後、海外事業統括、営業本部長、代表取締役専務を経て、2015年に代表取締役社長に就任。

岩田 知佳(いわた ちか)
InterFM ラジオDJ。千葉県船橋市出身。石井食品・石井智康と同郷・同級生という縁から、ラジオ番組「石井食品 presents おいしいの種」のDJを務める。2児の母としての経験や地域コミュニティづくりを通じて感じたことを交えながら、食をめぐるゲストの話に耳を傾け、リスナーの日々にそっと寄り添う。

石井 智康(いしい ともやす)
石井食品株式会社 代表取締役社長執行役員。千葉県船橋市出身。食にまつわる課題の解決や、地域の食の魅力を伝える取り組みに向き合っている。娘を育てる父親として、日々の食卓を身近に感じる視点も持つ。「おいしいの種」では、ゲストとともに食の楽しさや大切さを考える。
ロンドンで出会った、ものづくりの共通点
岩田さん:おふたりの仲の良さは伝わってきますが、どんなきっかけで知り合ったんですか。
石井:実はロンドンで会ったんです。新しい食文化を視察したとき、河本さんに案内していただきました。ユーハイムのことはもちろん知っていたんですが、詳しくお話を聞くと、うちと考え方がまったく一緒だと。
つくっているものが違うので、それまであまり接点がなかったんですよね。ロンドンで意気投合して、そこから一緒に何かできないかと考えるようになりました。
ドイツ生まれのバウムクーヘンが、日本で育んだ食文化
岩田さん:ユーハイムといえば、やっぱりバウムクーヘン。身近すぎて考えたことがなかったのですが、どんなお菓子なのか、改めて教えていただきたいです。
河本さん:もともとドイツでは、伝統工芸の飾り菓子のようなものなんです。大きなものだと150cmくらいあって、貴族のパーティーなどで、まず飾るためにつくられていました。
ドイツ語で「バウム」は「木」、「クーヘン」は「ケーキ」という意味です。日本ではよく「木の年輪のお菓子」だと思われていますが、実は焼くときの道具に由来する名前なんです。
石井:僕も「木の年輪だからバウムクーヘンなんだ」と思っていました。
河本さん:ドイツでは、お菓子をつくる道具を名前に使うことがあります。ここでいう木は心棒のこと。長い心棒に生地をつけて焼いていくお菓子、という意味なんですね。
日本では年輪を幸せの象徴として受け止めました。他国の文化を上手に解釈して、自分たちの文化にしていくところが、バウムクーヘンにも表れていると思います。
岩田さん:カットして食べるというのも、日本で広まった食べ方なんですか。
河本さん:ドイツではクリスマスに飾って、終わってから食べることが多いんです。僕が勝手に言っているだけですが、日本の鏡餅のような感じですね。
一方、日本人はできたらすぐ食べるのが好きですよね。できたてのバウムクーヘンをカットして食べる、という文化も日本の文化だと思います。
バウムクーヘンの食感をつくる、層を重ねる技術
石井:バウムクーヘンの魅力は、どんなところにあるんですか。僕は大好きで、あるとつい食べてしまうんですが。
河本さん:材料がすごくシンプルなんです。基本となる材料は、砂糖、小麦粉、卵、バター。それを一層ずつ芯棒につけて焼いていきます。
生地のつけ方や焼き方、層の重ね方で食感が変わる。その食感が、そのまま味になるんです。つまり技術がそのまま味になる、ということですね。
石井:僕はそれほど甘党ではないんですが、バウムクーヘンは結構食べてしまう。食感を食べているのかもしれないですね。

芯棒に生地をつけ、バウムクーヘンの生地を一層ずつ焼き重ねる(提供:ユーハイム)
「変わらぬ味」のために、おいしくし続ける
岩田さん:今、わたしたちが食べているバウムクーヘンは、日本人の舌に合わせてつくられているのでしょうか。
河本さん:わたしたちは今も、ドイツと同じ材料、同じつくり方を忠実に守っています。そのうえで大切にしているのが、職人の技術です。技術が味をつくっていくんですね。
材料やつくり方が変わらなくても、技術を磨くことで、おいしくし続ける。100年前のものをそのまま守っているだけだったら、今のように広まっていなかったと思います。
日本人の舌に合わせたというより、職人が「もっとおいしくできないか」と問い続けていることが大きいです。
石井:これはミートボールもまったく一緒なんですよ。「変わらぬ味でおいしいね」と言われるんですが、昔よりずっとおいしくなっています。そこで初めて、現代の人に「変わらぬ味で懐かしいね」と言っていただけます。
「無添菓」と「無添加調理」に共通する考え方
岩田さん:ユーハイムと石井食品には、ものづくりの共通点もあるんですよね。
石井:石井食品では「無添加調理※」という言い方をしています。職人の腕や工夫で課題を乗り越えて、よりおいしくしていこう、という考え方です。
河本さん:ユーハイムでは、製造工程から食品添加物を抜いていくことに取り組み、「スラッシュゼロ」という宣言をしました。ただ、そこを達成したときに、それがおいしさにつながっていないとだめだと考えたんです。
食品添加物を使わないことを前提に、職人が技を磨いて、さらにおいしさを求めていく。その意味を込めて、お菓子の「菓」の字を使った「無添菓」という言葉で表しています。
石井:食品添加物にはいろいろな機能があって、便利なんです。僕らは決して食品添加物を悪いものだとは思っていません。そのうえで、従業員や職人の工夫と努力で、よりおいしくしていこうとしています。そうした取り組みが、結果として、食品添加物を使わないという選択につながっていくんです。
河本さん:食材へどれだけ手間ひまをかけるかが、おいしさに直結していく。わたしたちは、それを技術だと捉えています。工場の製造ラインにも職人がいて、お菓子をもっとおいしくしていこうと考えているんです。
※当社での製造過程においては食品添加物を使用しておりません。
つくりたい味から、材料づくりまで遡る
岩田さん:おいしさを追求する中で工夫を積み重ねて、どんどん良くしていくんですね。
河本さん:チーズケーキでは、職人が材料メーカーさんと一緒に、クリームチーズをつくることにも挑戦しました。
「こういうおいしいチーズケーキをつくりたい」という想いから、材料メーカーさんと一緒に、産地や製法まで遡って、良い素材を探し求める。その結果、おいしいチーズケーキに仕上がり、食品添加物を使わずにつくることも可能になりました。
チーズ作りから取り組み、職人の技でおいしさを追求したチーズケーキ。(提供:ユーハイム)
和栗のおいしさを、モンブランへ
岩田さん:そんなユーハイムと石井食品が、一緒に商品をつくっているんですよね。
石井:石井食品は、栗ごはんや栗きんとんなどで使う栗を、農家さんと一緒に取り扱っています。その中には、小さかったり欠けていたりする栗もあります。それをペーストにする技術があるので、ユーハイムさんに使っていただいて、昨年おいしいモンブランができたんです。今年は、その取り組みの第2弾になります。
河本さん:単に食品のロスを減らすという考え方を超えて、そこにあるのは新鮮でおいしい栗の一部なんです。それをその場でペーストにして届けていただける。職人たちも「こんなにおいしいものを、新鮮な状態で、こんなにたくさん使っていいのか」と大喜びでつくったお菓子です。

石井食品の栗の皮むき作業。素材に手間ひまをかける、ものづくりの一場面。
両社のものづくりへの共感から生まれた共創プロジェクトが、「スラッシュゼロ ラボ」です。第2弾となる『和栗きんとんモンブラン』では、石井食品の製造工程で商品規格から外れた栗を活用した和栗ペーストに、ユーハイムの洋菓子づくりの技術を掛け合わせています。形を変えることで、和栗のおいしさをもう一つの楽しみ方へつなげた一品です。

『和栗きんとんモンブラン』(提供:ユーハイム)
まとめ|いつもの味の向こうに、つくる人がいる
原材料の素材や職人の技術を大切にしながら、技術を磨き、ときには原材料づくりから工夫を重ねる。ユーハイムと石井食品に共通していたのは、「もっとおいしくできないか」と問い続ける姿勢でした。
「変わらぬ味」と感じるひと口の向こうには、小さな工夫を積み重ねる人たちがいます。いつものお菓子を味わう時間にも、その仕事を思い浮かべると、少し違った楽しみが見つかるかもしれません。
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