天草ぶりのおいしさをつなぐ、海と加工場の速さを訪ねて
熊本#07|天草ぶりのおいしさをつなぐ、海と加工場の仕事
【編集部より】2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震で被害を受けられたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。熊本で今もものづくりを続けるみなさまへの敬意を込め、取材したことばをお届けします。
素材本来のおいしさを届ける石井食品は、食を通じて地域とともに歩むことを大切にしています。2016年の熊本地震から10年。現地とのご縁を育み、今年は熊本の作り手と特別なおせちをつくりました。私たちが現地で出会った、熊本の食と人の魅力をお届けします。
有明海の干潟であさりの再生を追い、陸上の池で車海老を育てる人をたずねた熊本シリーズ。海の回の3本目は、天草ぶりです。向かったのは、熊本県天草市栖本町にある熊本県海水養殖漁業協同組合。生産者が育てた魚を受け入れ、加工し、各地へ届ける拠点です。

魚の受け入れや出荷準備が進む、加工場前の岸壁。
組合には約40経営体の生産者が所属しています。栖本の加工場では、鰤のほか真鯛やシマアジも扱い、天草ぶりは年間約12万尾を加工しているといいます。かつてはぶり専門の工場でしたが、10年ほど前から魚種を広げてきました。この組合は、漁業権を管理する一般的な漁協とは成り立ちが少し異なります。養殖に携わる生産者が集まり、魚の販売先をつくり、出荷を支えるための組織です。岸壁の生け簀(いけす)には生産者から魚が運び込まれ、朝の水揚げ、加工、出荷へと仕事が続きます。育てる人だけでなく、その先を担う人がいることで、天草の魚は遠くの食卓へ向かいます。

熊本県天草市栖本町にある熊本県海水養殖漁業協同組合の加工場。
目次
- 潮が育てる魚と、赤潮への備え
- 水揚げ後の時間まで、おいしさに変える
- 「半身ください」が日常にある町
- まとめ|また「熊本の天草ぶりを食べたい」と思う入口に
お話を伺った方
吉中 豊彦(よしなか とよひこ)さん
熊本県海水養殖漁業協同組合 販売・加工課 工場長(課長)
潮が育てる魚と、赤潮への備え
天草の漁場について、吉中さんは牛深周辺の特長をこのように話します。
吉中さん:牛深周辺は潮の流れが速く、海中の酸素も豊富です。魚の餌食いがよく、成長しやすい漁場です。
一方で、近年は赤潮の発生が大きな課題です。
吉中さん:赤潮がひどいときは、餌を止め、いかだへ近づくことも控えます。船が来ると、魚は『餌が来た』と活発に泳ぎ出し、その動きで呼吸量が増えて、赤潮の原因となるプランクトンを体内に取り込みやすくなるためです。
何かをするのではなく、あえて近づかない。日々魚を見ているからこそ選べる対処です。
約40の生産者には、それぞれの餌や育て方があります。
吉中さん:ひとつの方法でくくるのではなく、出荷する魚が決まれば、その生産履歴を確認できます。
それが地域団体商標「天草ぶり」を支える土台になっています。生産者はほぼ毎日漁場へ出て、餌の食べ方や病気の兆候がないかを確かめます。海は同じように見えても、潮や水温、魚の様子は日々変わります。統一した言葉で「天草のぶりはすべて同じ」と言い切るのではなく、一人ひとりの育て方をたどれるようにする。その誠実さも、組合の姿勢として印象に残りました。
水揚げ後の時間まで、おいしさに変える

インタビューを受けるの吉中さん(左)
生産者から魚を受け取った加工場が最も大切にしているのは、締めと血抜きです。
吉中さん:魚を暴れさせると体内に乳酸がたまり、身の色や状態に影響します。そこで水揚げした魚を筒に通し、電気で一度落ち着かせてから締め機へ送ります。
状態に応じて神経抜きも行い、死後硬直を遅らせます。
もうひとつのカギは加工処理の速さです。
吉中さん:朝に水揚げしたぶりは午前中に加工・出荷を終え、早ければその日の19時、20時には東京・豊洲へ届きます。
生産者が時間をかけて育てた魚を、できるだけよい状態で食べる人へつなぐ。海と食卓の間を縮めることも、加工場の仕事です。
吉中さん:魚そのものが一定の品質に育ったあとも、加工側がどう受け取るかで状態は変わります。
水揚げから締めまでの短い時間に、魚を落ち着かせ、必要な処理を見極める。機械を使いながらも、最後は魚の動きや硬直の進み方を見て判断します。速さは単なる効率ではなく、育てた時間を損なわないための技術でした。
吉中さん:脂の乗ったぶりは、そのままでも身の厚みと全体の丸みから見分けることができます。
取材時に見せてもらった魚は、氷の上で背がふっくらと張り、加工を待っていました。
「半身ください」が日常にある町

締めと血抜きを終え、氷で冷やされたぶり。加工の早さが鮮度を支えます。
地元では、近所の人が加工場へ「半身ください」と買いに来ることも珍しくありません。
吉中さん:おすすめは刺身、炙り、しゃぶしゃぶです。牛深には『刺しつけ』という食べ方もあります。
「刺しつけ」は、甘辛い醤油だれにぶりをさっとくぐらせる天草地域の味です。
前回の車海老では、養殖池の環境を整えながら一尾ずつ育てる時間に触れました。天草ぶりの生産地は、育てる人から加工する人へ受け渡し、鮮度を落とさず運ぶ連携が見えてきます。同じ天草の海でも、食材によって、おいしさを守る方法は異なります。
まとめ|また「熊本の天草ぶりを食べたい」と思う入口に
今回、『すごい熊本酒肴箱』には吉中さんの元で育った天草ぶりを使った「天草ぶりの甘煮」が食べられます。
熊本の醤油と赤酒を中心に甘めに仕上げた一品を試食した吉中さんは、驚いた様子でこう話しました。

『天草ぶりの甘煮』を試食する吉中さん。
吉中さん:ここまでふっくらするとは思わなかった。
取材時はまだ脂が少ない時期。本番の冬には魚がさらに大きくなり、脂も乗るといいます。
「天草ぶり」の全国での知名度は、まだこれから。おせちが、海の環境を見守る生産者と、鮮度をつなぐ加工場の仕事を知り、また熊本のぶりを選ぶ入口になればと思います。

「天草ぶりの甘煮」の盛り付け例
―次回・熊本シリーズ #08|熊本の馬肉の生産者をたずねます
商品情報
『すごい熊本酒肴箱(しゅこうばこ)〜生産者とともに、一年かけて作り上げた一箱〜』
熊本の生産者とともに一年をかけてつくった、2人前の酒肴箱。天草大王、火の本豚、馬肉、天草の車海老、天草ぶり、長洲町のトマト、有明海のあさりなど、熊本各地の食材を使った全9品と熊本県産米(1合)を詰め合わせました。酒肴を楽しんだあとは、「長洲町あさりの贅沢まぜご飯の素(きゃあめし)」で〆まで熊本の食文化を味わえます。全品個別包装、限定200箱です。

「すごい熊本酒肴箱」 盛り付け例