つくる
2026.10.02

「火の国の名を、背負う」熊本・和水町の兄弟がつくる豚「火の本豚」

熊本#03|生産と販売を兄弟で担い、「火の本豚」を未来へつなぐ

【編集部より】2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震で被害を受けられたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。熊本で今もものづくりを続けるみなさまへの敬意を込め、取材したことばをお届けします。

熊本の豊かな風土と、情熱あふれる作り手を訪ねるコラムシリーズ(全11回)。第3回は、熊本県北西部の和水町(なごみまち)を訪ねます。
熊本は、古くから「火の国」と呼ばれてきました。その名を冠した「火の本豚」は、さいき農場のオリジナルブランド豚です。名前に込められているのは、「火の国・熊本の本物の豚肉を届けたい」という思い。生産を担う兄・齊木正剛さんと、販売・発信を担う弟・齊木大和さん。兄弟がそれぞれの役割からおいしさを磨き、熊本の豚肉を未来へ残そうとする仕事を訪ねました。ともに歩むのは、連載のつなぎ手・佐藤かつあきさんです。

目次

  • 火の国の名を、背負う
  • ゆずらない、餌と水
  • 豚が育つ環境への投資
  • 仲間と国産の豚を守る
  • 継いだもの、残したいもの
  • まとめ

お話を伺った方

齊木 正剛(さいき せいごう)さん 

有限会社サイキ代表取締役。熊本県和水町(なごみまち)と鹿児島県の直営農場「さいき農場」で養豚業を営む2代目。餌・水・空気という飼育環境にこだわり、生産を担う立場から「火の本豚」を育てている。

齊木 大和(さいき やまと)さん

株式会社アンドサイキ代表取締役。兄の正剛さんが育てた豚肉の精肉販売と情報発信を担い、「火の本豚」を名づけた。

佐藤かつあき(さとうかつあき)さん

熊本を拠点とするクリエイティブディレクターで、「株式会社かつあき」を主宰。地域や企業の魅力を伝えるしごとや、ものづくりのディレクションを幅広く手がけてきました。熊本の文化や慣習を知り、石井食品と熊本の作り手のあいだに立つ人。この連載では、作り手と読者、そして熊本とその外をつなぐ「つなぎ手」として、毎回ともに歩んでもらいます。石井食品とのつながりは、2016年の熊本地震後、被災地の声から生まれた「potayu(ぽたーゆ)」を共同開発したときから。佐藤さんはパッケージデザインを手がけました。今回は『すごい熊本酒肴箱』の包材や映像のディレクションを担います。

火の国の名を、背負う

— まず、「火の本豚」というお名前の由来から教えてください。

齊木大和さん:熊本は「火の国」とよく言われますよね。火の国・熊本の本物の豚肉、というところをイメージして名づけました。熊本を、九州を代表する豚肉として届けたいという想いで、この名前にしました。

なぜ「火の国」なのか。つなぎ手の佐藤さんがすかさず補足します。

佐藤かつあきさん:やっぱり阿蘇が熊本にドカンとあって、そこに火山があるから「火の国」がある。その阿蘇山から、何百年もかけて磨き上げられた水が地下水となって、ここまで来る。そういう流れですよね。

火と水。熊本を象徴するふたつが、「火の本豚」に宿っています。

「火の本豚」への想いを語る齊木大和さん

ゆずらない、餌と水

その甘みは、どこから生まれるのでしょう。おいしさの秘訣を尋ねると、正剛さんは「餌・水・空気」と答えました。なかでも一番のこだわりは、餌です。自社に飼料工場を持ち、原料から配合しています。

齊木正剛さん:トウモロコシは丸粒のまま仕入れ、大豆かすと合わせます。この2種類で飼料の9割以上を占め、そこにプレミックスを加えます。豚の成長段階に合わせて、5〜6種類の飼料を自社で配合しています。

飼料は、粉砕した直後から酸化が始まります。さいき農場では、粉砕してから数時間後には豚に与えられるといいます。

齊木正剛さん:一般的な配合飼料は、工場で作られてから農場に届くまで5日から1週間ほどかかることがあります。うちは粉砕して数時間後には供給できる。そこに鮮度の違いがあります。

もうひとつのこだわりが、地下約200メートルから汲み上げる水です。

齊木正剛さん:餌と水には、一番自信があります。

豚が育つ環境への投資

— 正剛さんはさいき農場の2代目です。昔ながらの手作業の豚舎を継ぎ、そこに新しい豚舎を建てました。 

齊木正剛さん:タッチパネルで床暖房があって、冷房完備。車のラジエーターのように、水の気化熱で冷やす装置のついた豚舎です。

— なぜ、そこまで環境にお金をかけるのか。理由は、豚と過ごす時間の短さにありました。

齊木正剛さん: 豚は育成期間は半年ととても短いんですよ。その半年間は、うちで過ごす豚にストレスのない環境ですくすく育ってほしい。だから設備投資をしています。

— 効率を追う道もあったはずです。それでも正剛さんは、豚と地域のための環境を選びました。 

齊木正剛さん:1番は、地域の人たちに迷惑をかけたくない、というのがありました。養豚は匂いも出ますし、環境対策がちゃんとできていないと、地域に認められないです。餌・水・空気、それに人、そして地域。そこは、ゆずれないところですね。

さいき農場の養豚場

仲間と国産の豚を守る

— 養豚の世界では、生産者どうしがライバルではなく仲間なのだと、正剛さんは話します。 

齊木正剛さん:僕たち生産者は、ライバルというより仲間です。「これをしたら子豚が大きくなったよ」と教え合いながら、業界を守ろうとしている。「これ以上、生産者を減らさないぞ」という思いがあります。国内の豚肉生産を、少なくとも現状から減らさないように、残った生産者が規模を広げながら切磋琢磨しています。

その学びは、飼育方法だけではありません。「ベンチマーキング」と呼ばれる取り組みでは、決算書を持ち寄り、経営の中身まで学び合うといいます。

兄の正剛さんが育てた豚肉を、弟の大和さんが販売の現場で確かめ、その状態やお客さまの反応を兄へ返す。生産と販売を分担する兄弟は、互いの視点を持ち寄りながら改善を重ねてきました。

齊木大和さん:福岡市場の品評会で評価をいただいて、やっていることは間違いじゃなかったんだな、と思えました。

継いだもの、残したいもの

— 家業を継ぐまでには、葛藤もありました。それでも今は、継いでよかったと振り返ります。心に残るのは、お父さまの言葉です。 

齊木正剛さん:親父も言うんですよね。「もし子や孫に引き継ぐなら、お金じゃなくて精神を残してくれ」と。投げやりの「クソ」じゃなくて、「何クソ根性」で頑張る。それは大事かなと。 

弟の大和さんも、幼い頃から両親の背中を見て育ちました。販売にはぶれない軸があります。 

齊木大和さん:小手先の技術で営業するんじゃなくて、本当においしい豚肉を作りたい。「絶対に営業しない、みんなが分けてと言ってくれるまで行きたい」。そんな思いでやってきました。 

— 大和さんの目は、和水町の外にも向いています。

齊木大和さん:東京に行かなくても、楽しくごはんが食べられる。田舎にいても、頑張ったらできる。町と一緒に、成長していきたいですね。

— 同じ土地でつくり続ける兄弟に、つなぎ手の佐藤さんが言葉を添えました。 

佐藤かつあきさん:すごく共感できる、素晴らしいお話でした。ご兄弟でこんなに仲良くされているのも、役割分担されているのもあるんでしょうね。 

インタビュー中の佐藤かつあきさん(左)と齊木正剛さん(右)

取材の日、『すごい熊本酒肴箱』のメニューである「火の本豚の角煮 上天草シトラスジャム仕立て」を試食していただきました。

熊本県和水町で育ったブランド豚「火の本豚」はアクや臭みが少なく、やわらかな赤身と旨みあふれる脂身が特長です。豚のうまみを生かすために、味付けには、無添加・無農薬で仕込まれた伝統の松合醤油を使用しています。

 

「火の本豚の角煮 上天草シトラスジャム仕立て」盛り付け例
「火の本豚の角煮 上天草シトラスジャム仕立て」盛り付け例

齊木大和さん:おいしいお肉を作る自負はありますが、それをさらに引き立てていただいた一品でした。年始にふさわしいものができたなと感じています。

まとめ

火の国・熊本の名を背負う、さいき農場のオリジナルブランド豚「火の本豚」。そのやわらかな赤身と、ほどよい甘みの奥には、父の代から受け継いだ自家配合飼料、地下約200メートルから汲み上げる水、そして豚がストレスなく過ごせる環境への投資がありました。

「出荷する前の今日も、豚に優しくしています」

生産を担う兄と、販売・発信を担う弟。兄が育て、弟が届け、販売の現場で受け取った声を再び生産へ返す。その循環によって「火の本豚」のおいしさを磨きながら、兄弟は熊本の豚肉を未来へ残そうとしています。火の本豚を知ることは、熊本の風土と、そこで食をつくり続ける人の思いを知ること。熊本の作り手をめぐる旅は、まだ続きます。

和水町の風景

―次回・熊本シリーズ #03|幻の地鶏・天草大王のつくり手をたずねます

商品情報

『すごい熊本酒肴箱(しゅこうばこ)〜生産者とともに、一年かけて作り上げた一箱〜』

熊本の生産者とともに一年をかけてつくった、2人前の酒肴箱。天草大王、火の本豚、馬肉、天草の車海老、天草ぶり、長洲町のトマト、有明海のあさりなど、熊本各地の食材を使った全9品と熊本県産米(1合)を詰め合わせました。酒肴を楽しんだあとは、「長洲町あさりの贅沢まぜご飯の素(きゃあめし)」で〆まで熊本の食文化を味わえます。全品個別包装、限定200箱です。

「すごい熊本酒肴箱」 盛り付け例