つくる
2026.10.09

「幻の地鶏」天草大王を、生後1日から150日まで。 天草で守る、餌と育て方

熊本#04|生後1日から150日まで、天草大王を育てる仕事

【編集部より】2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震で被害を受けられたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。熊本で今もものづくりを続けるみなさまへの敬意を込め、取材したことばをお届けします。

素材本来のおいしさを届ける石井食品は、食を通じて地域とともに歩むことを大切にしています。2016年の熊本地震から10年。現地とのご縁を育み、今年は熊本の作り手と特別なおせちをつくりました。私たちが現地で出会った、熊本の食と人の魅力をお届けします。

第4回は、熊本県天草の山あいに建つ鶏舎を訪ねました。ここでは、熊本を代表する地鶏「天草大王」が、生後1日からおよそ150日まで、時間をかけて育てられています。

一般的な若鶏の約3倍にあたる飼育期間です。長く育てる分、必要な餌も、鶏が過ごすための広さも必要です。

それでも天草大王公元が守っているのは、仕上げの時期だけではなく、生後1日から最後まで同じ考え方で育てること。飼育へのこだわりと、「天草」の名を背負う地鶏への思いを、冨山さんに伺いました。

目次

  • 「安心して食べられる鶏を」という声から
  • 鶏の一生を左右する、最初の1週間
  • 生後1日から最後まで、同じ考え方の餌で
  • 籾殻と鶏糞でつながる地域の農業
  • 一度絶滅した「幻の地鶏」
  • 天草大王が広がれば、天草も元気になる
  • まとめ

お話を伺った方

冨山 宏士(とみやま ひろし)さん
株式会社天草大王公元 総括営業部長

「安心して食べられる鶏を」という声から

天草大王公元が餌や飼い方を見直したのは、養鶏を始めて間もないころでした。

熊本県内の自然食品店から、「安心して食べられる鶏を探しているけれど、なかなか見つからない。育ててもらえないか」と依頼を受けたことがきっかけだったといいます。

冨山さん:うちの社長が「誰もやらないのであれば、誰かがやらなくちゃいけない」と考えて、飼い方を切り替えました。それ以来、ずっとこのこだわりを守っています。

誰かが必要としているのなら、自分たちがつくる。その決断から始まった飼育方法が、いまも天草大王公元の土台になっています。

 

熊本県天草の豊かな緑に囲まれた鶏舎

 

鶏の一生を左右する、最初の1週間

籾殻の敷かれた鶏舎で育つ、若い天草大王


鶏舎の一日は、餌と水を与えることから始まります。その後、出荷の終わった空き部屋の糞出しや洗浄を行い、次のひよこを迎える準備など、その時々の仕事を進めます。

ひよこが入ってくるのは月に1回。そのため鶏舎には、ひよこから出荷前の鶏まで、成長段階の異なる天草大王がいます。なかでも神経を使うのが、ひよこの時期です。

冨山さん:鶏の一生は、最初の1週間、2週間で決まるといわれています。だから、この時期が特に大切です。専任のスタッフが細かく管理しています。

天草大王は、生後120日から150日ほどで出荷されます。一般的な若鶏が40日から50日ほどで出荷されるのに対し、約3倍の時間をかけて育つ鶏です。

飼育期間が長ければ、その分、飼育場所や餌の確保が必要になります。天草大王公元では、若鶏と比べて5倍ほどの広さを確保し、1羽が食べる餌の量も2.5〜3倍ほどになるといいます。効率だけを考えれば、簡単には選べない育て方です。それでも、一羽一羽が健康に育つ時間を省くことはありません。

生後1日から最後まで、同じ考え方の餌で

天草大王に与える餌を準備する冨山さん


餌には、トウモロコシ、米、大豆、ぬかをはじめ、ミネラル、乳酸菌、納豆菌、アミノ酸などが配合されています。動物性の原料は使っていません。

また、遺伝子組み換えでない原料や、抗生物質を配合していないものを選び、輸入穀物についても、収穫後に使用される農薬や燻蒸剤が使われていない餌を使用しています。

冨山さん:仕上げの時期だけ同じ餌を使う生産者さんもいますが、うちは生後1日から最後まで、ずっと同じ考え方の餌で育てています。

成長の最後だけを整えるのではなく、ひよこのころから変えないこと。それが、天草大王公元の大きな特徴です。

夏の暑さへの対応も欠かせません。鶏は成長するにつれて暑さに弱くなるため、出荷が近い鶏には送風機で風を送り、できるだけ涼しく過ごせるように工夫しています。年々厳しくなる夏の暑さに対応するため、2026年からは、鶏の健康維持を支える方法の一つとして、黒麹菌を利用した飼料も取り入れています

籾殻と鶏糞でつながる地域の農業

鶏舎の床には、地域の農家から譲り受けた籾殻が敷かれています。そこに鶏糞が混ざることで堆肥となり、再び地域の農家へ渡されます。

冨山さん:鶏糞を受け取ってくださる方がいないと、養鶏はできません。鶏糞を必要とするのは農家さんですから、地域の農業と養鶏は、そういう形でつながっています。

農家から届いた籾殻の上で鶏を育て、鶏舎から出たものが畑へ戻っていく。天草大王の生産は、鶏舎のなかだけで完結する仕事ではありません。地域の農業との支え合いによって成り立っています。

一度絶滅した「幻の地鶏」

成長した天草大王を抱く冨山さん


天草大王は、一度絶滅した歴史を持つ地鶏です。少ない羽数から復活させ、地域の生産者が少しずつ数を増やしてきました。「幻の地鶏」という呼び名には、その歩みが残されています。

そのおいしさの土台にあるのが、品種の特徴です。血統には、肉の味が濃いシャモと、熊本の在来鶏である熊本コーチンの血が入っています。熊本コーチンの胸肉は水分を多く含み、しっとりとしているのが特長です。その個性は天草大王にも受け継がれています。

冨山さん:天草大王で水炊きをすると、本当においしいです。うちの天草大王は、餌の影響もあると思いますが、脂っこすぎず、澄んだ旨味があるのが特長だと思っています。

天草大王が広がれば、天草も元気になる

冨山さんにとって、天草大王は単なる地鶏の一品種ではありません。

冨山さん:「天草」という地域名がブランド名ではなく、品種そのものの名前についているものは、天草大王だけだと思っています。「天草」の名前を冠していることは、僕らの誇りの一つです。

天草大王が全国へ届けられるときも、その名前から「天草」が消えることはありません。

冨山さん:天草大王が広がっていくことは、天草を元気にすることにもつながると思っています。それが、僕らのやりがいです。

まとめ

「天草」の名を持つ地鶏への思いを語る冨山さん

夏は厳しく暑く、冬は寒い。自然のなかで、生後1日からおよそ150日間、天草大王を育てる仕事には、日々の苦労があります。

一般的な若鶏よりも長い時間をかけ、生まれた日から最後まで餌への考え方を変えずに育てる。籾殻を譲り受け、鶏糞を堆肥として農家へ返す。その仕事は、鶏舎のなかだけで完結するものではなく、地域の農業や、食べる人とのつながりによって成り立っています。

冨山さん:食べてくださった方の「おいしい」という一言で、全部吹き飛ぶんですよね。仕事をしてお金を稼ぐこと以上に、「おいしい」と言ってもらえることが、僕らにとって一番のご褒美です。

天草大王は、料理になって全国へ届けられるときも、「天草」の名を背負い続けます。食べた人がその名前を知り、天草という土地に興味を持ち、いつか足を運んでくれるかもしれない。天草大王を育てることは、地域の名前と魅力を未来へつなぐことでもあります。

冨山さん:この商品をきっかけに、熊本や天草、地域の細かな魅力まで知っていただけたら、本当に嬉しいです。そこから、実際に天草を訪れていただくきっかけにもなったらいいですね。

天草大王を使った料理を試食する冨山さん

石井食品の『すごい熊本酒肴箱』には、天草大王を使った「天草大王の柚子胡椒焼き」が入ります。天草産の柚子胡椒と合わせた一品は、魚焼き網やトースターで、皮がカリッとするまで温めてから食べるのがおすすめです。

天草大王の柚子胡椒焼き調理例

一口の「おいしい」から、その鶏が育った時間と土地へ。天草大王を味わうことが、天草のこれからを応援する小さなきっかけになっていきます。

―次回・熊本シリーズ #05|熊本県 長洲町の有明海を望むあさり漁の現場を訪ねます。

商品情報

『すごい熊本酒肴箱(しゅこうばこ)〜生産者とともに、一年かけて作り上げた一箱〜』

熊本の生産者とともに一年をかけてつくった、2人前の酒肴箱。天草大王、火の本豚、馬肉、天草の車海老、天草ぶり、長洲町のトマト、有明海のあさりなど、熊本各地の食材を使った全9品と熊本県産米(1合)を詰め合わせました。酒肴を楽しんだあとは、「長洲町あさりの贅沢まぜご飯の素(きゃあめし)」で〆まで熊本の食文化を味わえます。全品個別包装、限定200箱です。

 

「すごい熊本酒肴箱」 盛り付け例

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