つくる
2026.10.16

潮が引いた干潟で「あさりの目」を見極める。長洲町の海をもう一度にぎやかに

熊本#05|長洲町のあさりを守る、上田さんをたずねて

【編集部より】 こちらのコラム取材は、令和8年熊本地震発生前に熊本県内で行いました。熊本という土地と、そこで今もものづくりを続ける人たちへの敬意を込めて、取材したときのことばをお届けします。

素材本来のおいしさを届ける石井食品は、食を通じて地域とともに歩むことを大切にしています。2016年の熊本地震から10年。現地とのご縁を育み、今年は熊本の作り手と特別なおせちをつくりました。私たちが現地で出会った、熊本の食と人の魅力をお届けします。

天草大王を育てる現場に続き、熊本県玉名郡長洲町の有明海へ向かいました。
潮が引いた干潟にしゃがみ、砂の表面に目を凝らすのは、50年近く海に立つ漁師の上田さん。小さな穴を指し、「これが、あさりの目。この下におる」と教えてくれました。2020年(令和2年)の熊本豪雨で大きな打撃を受けた有明海で、上田さんが取り戻したいものを伺います。

目次

  • 50年近く見続けてきた、長洲町の海
  • 豪雨後、あさりを守り育てる仕事
  • 「あさりの目」を見極め、居場所を探る
  • 取り戻したいのは、人が集う浜の風景
  • 「長洲町あさりの贅沢まぜご飯」で海の物語を食卓へ
  • まとめ

お話を伺った方

上田 浩次(うえだ こうじ)さん

熊本北部漁業協同組合 代表理事 組合長
熊本県玉名郡長洲町で、20歳ごろから約50年にわたり有明海の漁に携わっています。海苔養殖とあさり漁を続けるなかで、2020年(令和2年)の熊本豪雨後には被覆網の管理やあさり再生に向けた試みにも積極的に取り組み、次世代への継承に尽力しています。

佐藤かつあき(さとうかつあき)さん

熊本を拠点とするクリエイティブディレクターで、「株式会社かつあき」を主宰。地域や企業の魅力を伝えるしごとや、ものづくりのディレクションを幅広く手がけてきました。熊本の文化や慣習を知り、石井食品と熊本の作り手のあいだに立つ人。この連載では、作り手と読者、そして熊本とその外をつなぐ「つなぎ手」として、毎回ともに歩んでもらいます。石井食品とのつながりは、2016年の熊本地震後、被災地の声から生まれた「potayu(ぽたーゆ)」を共同開発したときから。佐藤さんはパッケージデザインを手がけました。今回は『すごい熊本酒肴箱』の包材や映像のディレクションを担います。

50年近く見続けてきた、長洲町の海

上田さんが漁師になったのは20歳ごろ。海苔養殖とあさり漁に携わり、50年近く有明海を見続けてきました。

上田さん:私が小学生のころは、兄弟と両親とともにあさりを船いっぱい採っていたものです。1日で1tぐらい採れたこともありました。

潮干狩りを楽しむお子さまや、漁に出る家族の姿がある。それが、この浜の日常でした。しかし、あさりは徐々に減少。かつて60〜70人ほどが参加した操業も、取材時には30〜40人ほどになったといいます。

 

あさりを手に、長洲町の海について話す上田さん

豪雨後、あさりを守り育てる仕事

大きな転機は、2020年(令和2年)の熊本豪雨でした。上田さんによると、豪雨後、長洲町のあさりはほとんどいなくなり、死んだ貝が岸に打ち上がりました。

上田さん:完全に淡水になって、雨に打たれて、それから照り上がった。あさりも生きるために、暑いときは下に潜ってしのごうと頑張ってはくれたんです。けれど淡水で呼吸が苦しいところに、今度は暑さが襲いかかって、二段階の辛さで、ほとんどが生きていけなかったのかなと。

海水の塩分濃度の低下や暑さ、ナルトビエイによる食害。原因を一つに断定せず、上田さんは複数の変化が重なったと見ています。取材前年2025年の春に行われた試験操業は1日限定で約300kg。長洲町のあさり再生への道のりは、まだ途中です。

干潟では、食害を防ぐ「被覆網」であさりを守っています。網にはごみや付着物がたまるため、引き上げて乾かし、汚れを落として敷き直す。破れれば補修する。夏の干潟で続ける、外からは見えにくい仕事です。

上田さん:自然のまましておいても、あさりは守れんとですよ。 ネットもごみだらけになるし、傷んだり破れたりもします。1か月もすればフジツボなどがつくから、陸に干して、また入れます。

干潟に敷かれた被覆網。あさりを食害から守るため、手入れを重ねる。

潮が引いたら、「あさりの目」を見極める

「あさりの目」は、砂の表面に現れる小さな穴です。上田さんは穴の大きさや集まり方を見極め、あさりの居場所と大きさの見当をつけます。

上田さん:潮が引いて採るときは、あさりの目を見れば、ここにおると分かる。一番多そうなところを採ります。

広く深く掘るのではなく、砂の下の気配を読んで当たりをつける。あさりは自分の殻の丈の5倍から10倍ほどまで潜るといいます。変化する海を観察し続けてきた経験が支える技術です。

砂の表面を確かめ、あさりのいる場所を探る上田さん

取り戻したいのは、人が集う浜の風景

上田さんが願うのは、漁獲量の回復だけではありません。あさり漁は、干潟に立ち、家族や地域の人が一緒に手を動かせる仕事でした。

上田さん:あさりがいれば、漁業協同組合の組合員があさり漁に出られるし、一般の人向けに潮干狩りを開催することもできる。また賑やかに採れる海にしていきたい。

取材の日、干潟にはうれしい気配がありました。網を起こすと、小さなあさりがびっしりと出てくる。

上田さん:今年は海のなか全体に、結構な範囲で育っていて、やっと目処がついた。この夏を越せれば、もう一度安心かな。あさりは可愛いですよね。

あさりが戻れば、海へ行く理由が戻る。お子さまが潮干狩りをし、大人たちが声を掛け合う。あさりを守ることは、長洲町で受け継がれてきた人と海とのつながりを、次の世代へ渡すことでもあります。

あさりを手に取る上田さん

「長洲町あさりの贅沢まぜご飯」で海の物語を食卓へ

上田さんによると、長洲町のあさりは、春の産卵前に身がふくらむ2〜3月ごろがおいしい時期。みそ汁と並び、この地域で身近な食べ方が、あさりの炊き込みごはんです。

上田さん:私はみそ汁が一番、本当のあさりの味がすると思います。炊き込みごはんも、郷土料理の一つですね。漁師飯みたいな感じです。

『すごい熊本酒肴箱 ~生産者とともに、一年かけて作り上げた一箱~』には、「長洲町あさりの贅沢まぜご飯の素(きゃあめし)」と熊本県産米が入ります。有明海産あさりを酒蒸しにし、殻付きあさりのだしと生姜をきかせた一品です。

上田さん:食べた方に、『もう一度食べたい』と言ってもらえたら、うれしいですね。

長洲町あさりの贅沢まぜご飯(きゃあめし)調理例

 

まとめ

2020年(令和2年)の熊本豪雨で大きな打撃を受けた長洲町のあさり。上田さんたちは、被覆網の手入れを続けながら、あさりの再生を目指しています。

砂に現れる「あさりの目」を見極め、海の変化を見守る仕事の先にあるのは、漁獲量の回復だけではありません。家族や地域の人が再び浜に集い、子どもたちが潮干狩りを楽しめる風景です。

一杯のごはんの向こうに、網を手入れし、夏を越す方法を探り、小さな穴からあさりの居場所を見つける人がいる。その仕事を知ることが、長洲町の海を未来へつなぐ小さな入口になります。

―次回・熊本シリーズ #06|天草の車海老の生産者をたずねます

商品情報

『すごい熊本酒肴箱(しゅこうばこ)〜生産者とともに、一年かけて作り上げた一箱〜』

熊本の生産者とともに一年をかけてつくった、2人前の酒肴箱。天草大王、火の本豚、馬肉、天草の車海老、天草ぶり、長洲町のトマト、有明海のあさりなど、熊本各地の食材を使った全9品と熊本県産米(1合)を詰め合わせました。酒肴を楽しんだあとは、「長洲町あさりの贅沢まぜご飯の素(きゃあめし)」で〆まで熊本の食文化を味わえます。全品個別包装、限定200箱です。

「すごい熊本酒肴箱」 盛り付け例

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