1トンの馬を育て、熊本の食文化をつなぐフジチク
熊本#08|馬刺し文化を受け継ぐ、馬すじとローストホース
【編集部より】2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震で被害を受けられたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。熊本で今もものづくりを続けるみなさまへの敬意を込め、取材したことばをお届けします。
素材本来のおいしさを届ける石井食品は、食を通じて地域とともに歩むことを大切にしています。2016年の熊本地震から10年。現地とのご縁を育み、今年は熊本の作り手と特別なおせちをつくりました。私たちが現地で出会った、熊本の食と人の魅力をお届けします。
牧場で育つ大型の馬たち。競走馬とは体格が大きく異なる「重種」です。
第8回は、熊本の馬肉文化と、フジチクが育てた馬肉から生まれた「阿蘇の恵み 馬すじ味噌煮込み」、「阿蘇の恵み ローストホース」を紹介します。
目次
- 目の前に現れた、1トンにもなる馬たち
- 強い体をカナダで、肉の味わいを熊本で育てる
- 身近な肉から、家族が集まるハレの日のごちそうへ
- 馬刺しをつくるからこそ生まれる「馬すじ」
- 馬肉のうまみを引き出す「阿蘇の恵み ローストホース」
- 2つの料理で、馬肉の魅力を届ける
お話を伺った方
藤本 健(ふじもと けん)さん
株式会社フジチク 代表取締役社長
目の前に現れた、1トンにもなる馬たち
牧場に入ってまず驚いたのは、馬の大きさです。フジチクで育てているのは、「重種(じゅうしゅ)」と呼ばれる大型の馬。ベルジャン、ペルシュロン、ブルトンなどの品種が入り、大きいものでは体重が1トンほどになります。競走馬として目にする馬が約500kgと聞けば、その違いを想像できるでしょうか。
熊本県中部にあるフジチクでは、約1,000頭の馬を育て、加工して全国へ届けています。馬の飼育は創業当初から続けてきた仕事で、本格的に現在の形へ移ったのは約30年前だといいます。
大型の馬は、取れる肉の量が多いだけではありません。時間をかけて育て、餌をしっかり与えることで霜降り、赤身と脂の両方を味わえる肉になります。それが、熊本で親しまれている馬刺しの味わいにもつながっています。

畑の向こうに厩舎が並ぶフジチクの自社牧場。広く平らな土地に、阿蘇からの風が通ります。
強い体をカナダで、肉の味わいを熊本で育てる
馬は、およそ3歳になるまでじっくり育てます。フジチクではカナダ生まれの馬も多く、涼しく広大な土地を走り回りながら、幼い時期に丈夫な骨格の土台をつくります。その後、熊本で育てながら、赤身のうまみと脂の乗りを引き出していきます。
熊本の夏は馬にとっても厳しいものですが、牧場には阿蘇から吹き下ろす風が通ります。毎日口にする水には、地下からくみ上げた水を使用しています。
藤本さん:熊本は地下水に恵まれています。水に恵まれていることは、馬を育てる環境としても大きいと思います。
幼い時期に骨格の土台を育む土地と、肉としての味わいを整える土地。それぞれの環境を活かしながら、約3年の時間をかけて育てる。その積み重ねが、赤身にも脂にも味わいのある馬肉へつながっています。

取材時、柵の近くまで顔を寄せてきた馬たち。大型の馬を間近に見ると、その体格がよく分かります。
身近な肉から、家族が集まるハレの日のごちそうへ
なぜ、熊本で馬肉を食べる文化が根付いたのでしょうか。
歴史上の出来事が現在の馬刺し文化へ直接つながったかどうかは、はっきり分かっていませんが、肥後国熊本藩(ひごのくに くまもとはん)の初代藩主・加藤清正が、出兵の際に馬を食料にしたという説があります。(※)
一方、暮らしのなかの記憶は鮮明です。
藤本さん:15〜20年ほど前まで、馬刺しは魚の刺身と同じくらい身近な存在でした。「今日は魚のお刺身にしようかな、馬刺しにしようかな」と、家庭でお酒のおつまみに選ぶような日常の食べ物でした。
価格の上昇などにより、以前ほど日常的に食卓へ並ぶものではなくなり、お祝いや贈り物など特別な日のごちそうとして選ばれる機会が増えたといいます。それでも、家族や親戚が集まる席に馬刺しが並ぶ風景は、今も熊本に受け継がれています。
馬刺しをつくるからこそ生まれる「馬すじ」
今回のおせちに使うのは、馬刺しそのものではなく「馬すじ」です。
馬すじは、ひとつの決まった部位の名前ではありません。馬刺しを生でおいしく食べられるように仕立てる際、さまざまな部位から丁寧に取り除く筋を指します。
藤本さん:フジチクが育てる重種は霜が入りやすく、そこから取れる馬すじにも脂身がついています。筋だけでなく、赤身や脂をまとった部分が含まれることが、味わいの特長です。
今回は石井食品のために、すじ肉のみを使い、煮込んだときの食べやすさを考えながら、赤身・脂・筋のバランスを調整していただきました。
馬肉のうまみを引き出す「阿蘇の恵み ローストホース」
フジチクが育てた馬肉を使ったもう一品が、「阿蘇の恵み ローストホース」です。「阿蘇の恵み 馬すじ味噌煮込み」は赤身・脂・筋の組み合わせを活かした料理であるのに対し、こちらは馬肉そのものの味わいを楽しめるように仕上げています。
表面を香ばしく焼き上げてうまみを閉じ込め、低温でじっくり火を入れることで、しっとりやわらかな食感に。噛むほどに馬肉本来の濃厚なうまみが広がる一品です。
2つの料理で、馬肉の魅力を届ける
完成した馬すじの味噌煮込みを、フジチクの担当者にも試食していただきました。
藤本さん:非常に食べやすく、柔らかいですね。赤身だけでは硬くなりがちですが、脂や筋とのバランスがちょうどいいと思います。
馬刺しをおいしく仕立てるために、一つひとつの部位を見極め、筋を取り除く。その仕事から生まれる馬すじは、部位や脂の量を選び直すことで、味噌煮込みを支える素材になります。一方、ローストホースでは、馬肉そのもののうまみとやわらかさを引き出します。
異なる二つの料理を支えているのは、馬の飼育から加工までを手がけ、それぞれの部位を知るフジチクの仕事です。
家族や親戚が集まるときに馬刺しを囲む熊本の文化と、お正月におせちを囲む時間。『すごい熊本酒肴箱』の「阿蘇の恵み 馬すじ味噌煮込み」と「阿蘇の恵み ローストホース」は、その二つのハレの日をつなぐ料理です。

馬の飼育から加工、販売までを手がける株式会社フジチク
まとめ|2つの料理から見える、熊本の食文化と作り手の仕事
馬刺しを囲む時間は、熊本で暮らす人々にとって、日常の楽しみであり、家族や親戚が集まるハレの日の風景でもありました。その文化を支えているのが、馬を育て、肉の状態を見極め、一つひとつの部位を丁寧に仕立てる作り手の仕事です。
馬刺しを仕立てる工程から生まれる馬すじには、赤身や脂、筋の組み合わせによって異なる味わいがあります。また、馬肉の赤身は、火入れの仕方によってやわらかな食感と濃厚なうまみを楽しめます。フジチクが部位ごとの特長を見極め、石井食品が素材に合う調理を考えることで、「阿蘇の恵み 馬すじ味噌煮込み」と「阿蘇の恵み ローストホース」という二つの料理につながりました。
地域の食文化を未来へつなぐことは、昔からの料理をそのまま残すことだけではありません。受け継がれてきた素材や技術を知り、今の食卓に合う形でおいしく届けていくことも、その一つです。
『すごい熊本酒肴箱』の「阿蘇の恵み 馬すじ味噌煮込み」と「阿蘇の恵み ローストホース」が、熊本の馬肉文化と、その背景にある作り手の仕事を知るきっかけになればと思います。
―次回・熊本シリーズ #09|熊本の味を支える発酵調味料のつくり手をたずねます
商品情報
『すごい熊本酒肴箱(しゅこうばこ)〜生産者とともに、一年かけて作り上げた一箱〜』
熊本の生産者とともに一年をかけてつくった、2人前の酒肴箱。天草大王、火の本豚、馬肉、天草の車海老、天草ぶり、長洲町のトマト、有明海のあさりなど、熊本各地の食材を使った全9品と熊本県産米(1合)を詰め合わせました。酒肴を楽しんだあとは、「長洲町あさりの贅沢まぜご飯の素(きゃあめし)」で〆まで熊本の食文化を味わえます。全品個別包装、限定200箱です。

「すごい熊本酒肴箱」 盛り付け例