つくる
2026.11.02

熊本の味を支える醤油・味噌・酢―松合食品が創業200年へつなぐ発酵の力

熊本#09|創業200年へつなぐ、松合食品の発酵の仕事

【編集部より】2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震で被害を受けられたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。熊本で今もものづくりを続けるみなさまへの敬意を込め、取材したことばをお届けします。

素材本来のおいしさを届ける石井食品は、食を通じて地域とともに歩むことを大切にしています。2016年の熊本地震から10年。現地とのご縁を育み、今年は熊本の作り手と特別なおせちをつくりました。私たちが現地で出会った、熊本の食と人の魅力をお届けします。

熊本の海、畑、山を巡ってきた「おいしいの種」熊本シリーズ。あさり、車海老、天草ぶり、馬肉など、土地ごとに育まれた素材には、それぞれ異なる味があります。その個性を一つの料理にまとめ、熊本らしい味へ導くものは何でしょうか。

今回訪ねたのは、熊本県宇城市の松合食品株式会社。1827年の創業以来、醤油・味噌・酢をつくり続けてきました。工場長の大橋さんの案内で、目には見えない菌の働きと、人が積み重ねてきた仕事をたどります。

目次

  • 海と水が育てた、醸造の町・松合
  • 醤油の出来を決める、見えないところの仕事
  • 何十年も菌をつなぐ、昔ながらの酢づくり
  • 熊本の素材を、熊本の味へ

お話を伺った方

大橋 旭(おおはし あきら)さん
松合食品(まつあいしょくひん)株式会社 専務取締役・工場長

 

海と水が育てた、醸造の町・松合

かつて松合の町には、味噌、醤油、酢、酒をつくる蔵が4、5軒あったといいます。温暖な気候と醸造に適した水、そして海に近いこと。重い大豆や小麦を船で運び、できた調味料を九州一円へ届けられる立地が、醸造の町を支えてきました。

松合食品は「阿波屋」の屋号を持つ蔵の一つでした。今、この地で醸造を続ける阿波屋は松合食品だけ。四代目の時代のレシピも残り、現在の七代目へ受け継がれています。

大橋さん:基本的なものづくりの考え方は変わっていません。ただ、昔と同じように全ての工程を手作業だけで続けていくと、どうしても作れる数量に限りがあり、より多くのお客様に商品をお届けするのが難しくなってしまいます。そこで私たちは、伝統と機械化をうまく組み合わせ、10年後、100年後にも地域の人に使っていただけるようにしたいんです。

 

工場に並ぶ発酵・熟成のためのタンク。温暖な気候と水が松合の醸造を支えてきました。

醤油の出来を決める、見えないところの仕事

醤油に使うのは、熊本県産の丸大豆と小麦。もろみをおよそ1年かけて熟成させ、布に包んで重ね、最初は重みだけで自然に垂らします。翌日から少しずつ圧力を加え、搾り終えるまで約1週間。搾りたての醤油の色は黒ではなく、赤とオレンジが混じる「赤橙色」をしています。

大橋さんが最も大切だと話すのは、麹づくりです。醤油づくりには「一麹(いちこうじ)、二櫂(にかい)、三火入れ(さんひいれ)」という言葉があり第一に麹づくり、第二にもろみを櫂で混ぜる作業、第三に火入れが重要という意味で、麹が味の土台を決めます。状態を確かめるため、夜中に工場へ来ることもあるそうです。

大橋さん:人が見ていないところで積み上げてきたものが、品質になると思っています。だから麹づくりは、妥協できない工程です。

丸大豆の油分や小麦のでんぷんは、麹菌や酵母菌の働きによって変化し、甘味やうまみ、香りへつながります。原料が持つ力を、時間と技術で引き出す。その積み重ねが、素材を受け止めるまろやかな醤油になります。松合食品では、製造設備の一部もグループ会社でつくっています。自分たちの仕事に合う設備を整え、抑えられた費用を良い原料へ回す。伝統を残すために、道具や働き方は変えていくという考えが、ここにも表れています。

麹の状態を確かめる大橋さん。麹づくりは醤油の味の土台となる工程です。

何十年も菌をつなぐ、昔ながらの酢づくり

味噌には、熊本県産の大豆、九州産の麦、九州産の米などを使います。九州の味噌は麹の割合が高く、甘めに仕上がるのが特長。今回のすごい熊本酒肴箱の一品「阿蘇の恵み 馬すじ味噌煮込み」には、玄米の香ばしさを持つ玄米合わせ味噌が使われています。

酢も、原料からたどると玄米に行き着きます。自社農場で育てた玄米から酒をつくり、その酒を酢酸菌の力で酢へ変える。液面に浮かぶ菌が空気を取り込み、約2か月かけて自然に発酵させる「静置発酵法」です。

別の酢屋で菌膜が災害などによって沈み、使えなくなったときには、松合食品が菌を分けたこともあったそうです。蔵の菌を守ることは、一社だけの仕事ではありませんでした。地域のつくり手が支え合い、何十年も命をつないできたから、今の味があります。

タンクを案内する大橋さん。

熊本の素材を、熊本の味へ

大橋さんは、調味料の役割を「素材の味を引き立てること」だと話します。

醤油そのものの味を確かめるなら冷奴、香りを見るなら炊きたてのごはん。卵かけごはんは、ごはんに先に醤油をかけて香りを立たせ、あとから溶き卵を加えるのがおすすめだそうです。

今期発売の『すごい熊本酒肴箱』では、松合食品の醤油・味噌・酢を使用しています。『すごい熊本酒肴箱』の「天草大王と熊本野菜のがめ煮」では醤油が野菜や肉の味をまとめ、「阿蘇の恵み 馬すじ味噌煮込み」では玄米合わせ味噌がコクを、酢が後味の輪郭をつくります。これまで訪ねてきた熊本の素材が、松合食品の発酵調味料と出会い、一つの土地の味へとつながっていきます。

大橋さん:熊本県産だから選ぶ、だけではなくて、おいしいから選ぶ。そう思っていただけるものづくりを続けたいです。

『すごい熊本酒肴箱』の料理を試食する大橋さん。調味料は素材の味を引き立てます。

―次回・熊本シリーズ #10|熊本の食を支える赤酒のつくり手をたずねます

商品情報

『すごい熊本酒肴箱(しゅこうばこ)〜生産者とともに、一年かけて作り上げた一箱〜』

熊本の生産者とともに一年をかけてつくった、2人前の酒肴箱。天草大王、火の本豚、馬肉、天草の車海老、天草ぶり、長洲町のトマト、有明海のあさりなど、熊本各地の食材を使った全9品と熊本県産米(1合)を詰め合わせました。酒肴を楽しんだあとは、「長洲町あさりの贅沢まぜご飯の素(きゃあめし)」で〆まで熊本の食文化を味わえます。全品個別包装、限定200箱です。

「すごい熊本酒肴箱」 盛り付け例

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